2020-12-14 産業技術総合研究所,日本電子株式会社,科学技術振興機構
ポイント
- 世界中の地下環境に最も多く生息する「門」レベルで新しい細菌群を世界で初めて培養
- 細菌(原核生物)にもかかわらずゲノムDNAが膜で包まれているという、従来の常識を覆す細菌
- 天然ガス田など地下環境でのメタン生成機構の解明や、原核生物の再定義や生物の進化と多様化の理解に迫る重要な成果
産業技術総合研究所(理事長 石村 和彦、以下「産総研」という) 地圏資源環境研究部門(研究部門長 光畑 裕司) 地圏微生物研究グループ 片山 泰樹 主任研究員、吉岡 秀佳 研究グループ長、生物プロセス研究部門(研究部門長 鈴木 馨) 生物資源情報基盤研究グループ Nobu Masaru Konishi(延 優) 研究員、草田 裕之 研究員、孟 憲英 テクニカルスタッフ、鎌形 洋一 招聘研究員、玉木 秀幸 研究グループ長は、日本電子株式会社(代表取締役社長兼COO 大井 泉) EM事業ユニット 細木 直樹 主事、株式会社マリン・ワーク・ジャパン(代表取締役社長 杉山 和弘) 海洋地球科学部 植松 勝之 専門課長と共同で、天然ガス田などの地下環境でのメタン生成活動に重要な役割を担う細菌(バクテリア)、RT761株の培養に成功した。この菌株は一般的な細菌とは細胞の構造が根本的に異なり遺伝情報を持つゲノムDNAが細胞内で「膜」に覆われていた。また、RT761株が最も上位の分類階級にあたる「門」レベルで新しい細菌種であることを証明し、この菌株を代表とした新しい門をAtribacterota(アトリバクテロータ)、この菌株を新種Atribacter laminatus(アトリバクター ラミナタス)とする新学名を提案した。
生物は「原核」生物(例:大腸菌や乳酸菌などの細菌)と「真核」生物(例:ヒト、動植物、カビなど)の2つに大別される。両者の決定的な違いの1つはゲノムDNAが細胞内で膜(核膜)に包まれているかどうかであり、原核生物で核膜を持ったものは発見されていなかった。しかし、今回、培養したA. laminutus RT761株は、本来、原核生物が持つはずのない「ゲノムDNAを包む細胞内膜」を持っていた。原核生物の根源的な特徴を改めて見直し、その再定義を迫る可能性を示す。また、この菌株を代表とする新たな門Atribacterotaは世界中のメタンが賦存する地下環境(天然ガス田やメタンハイドレートなど)に広く生息する細菌グループの1つであることから、地下環境で見られる活発なメタン生成活動に果たす地下微生物の実態や役割の解明への貢献が期待される。
なお、この成果は2020年12月14日(英国時間)に「Nature Communications」誌に掲載される。
なお、本研究の一部は、文部科学省 科学研究費補助金(JP17K15183、JP18H05295、JP18H02426)、科学技術振興機構(JST) ERATO「野村集団微生物制御プロジェクト」(JPMJER1502)の支援を受けて実施した。
<研究に関すること>
片山 泰樹(カタヤマ タイキ)
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ 主任研究員
延 優(ノブ マサル コニシ)
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ 研究員
玉木 秀幸(タマキ ヒデユキ)
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ 研究グループ長
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
<報道担当>
産業技術総合研究所 広報部 報道室
日本電子株式会社 経営戦略室 コーポレートコミュニケーション室 広報・ブランドグループ
科学技術振興機構 広報課