脳内で双方向の接続を持つネットワークのコアを同定 ~意識を担う脳領域の解明に向けて~

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2022-07-21 科学技術振興機構,東京大学

脳内で双方向の接続を持つネットワークのコアを同定 ~意識を担う脳領域の解明に向けて~

ポイント
  • 私たちの主観的な体験である「意識」が、脳内の神経ネットワークのどの部分で生じるのかは明らかになっていない。
  • 本研究では、マウスの脳のネットワークを解析し、ネットワーク内の双方向の接続が特に強い部分が、意識に重要とされる領域で構成されることを示した。このことから、ネットワークの双方向性と意識が関係している可能性が示唆された。
  • 今後の研究によって、脳内ネットワークの双方向性と意識の関係がより深く解明されれば、将来的に、意識障害などの理解や治療に役立つことが期待される。

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院総合文化研究科の北園 淳 特任研究員、大泉 匡史 准教授、同大学 大学院情報理工学系研究科の青木 勇磨 大学院生は、マウスの脳内の神経ネットワークを解析し、ネットワーク内で双方向の接続が特に強い部分が、意識に重要とされる領域で構成されることを示しました。このことから、ネットワークの双方向性と意識が関係している可能性が示唆されます。

脳内では、脳の領域同士が、複雑なネットワークを構成し信号をやり取りすることで、さまざまな機能を実現しています。私たちの主観的な体験である意識も、この脳領域同士が成す複雑なネットワークが担っていると考えられています。しかし、実際に脳のネットワーク内のどの部分が意識を担うのかは、明らかになっていません。

これまでの研究で、意識的な知覚が生じるには、脳の中で順行性と逆行性の両方の信号伝搬、すなわち双方向の信号伝搬が存在することが重要であることが示されています。このことから、脳内で意識を担う部分ネットワークでは、脳領域同士が双方向に接続していると考えられます。この考えに基づくと、脳内のどの部分ネットワークで脳領域同士が双方向につながっているのか、またその双方向の接続の強さはどのくらいなのかを評価することが意識を担う脳領域を特定するのに重要なステップになります。しかし、脳のネットワークは多数の領域から成り、複雑な構造を持つため、そのような部分ネットワークの特定は困難でした。

そこで本研究では、脳内ネットワークから、双方向の接続が特に強い部分ネットワーク、いわばネットワークのコアを高速に特定できるアルゴリズムを開発しました。次に、開発したアルゴリズムをマウスの脳構造のネットワーク(コネクトームと呼ばれる)に適用しました。このコネクトームは、脳全体の約400領域間の接続を表すデータです。その結果、特に強い双方向の接続を持つコアは、これまでの研究で、意識を担う重要な部分であると示唆されてきた領域(大脳皮質と視床、前障と呼ばれる領域など)で構成され、一方で、意識に直接的に寄与しないとされてきた領域(小脳など)を含まないことが分かりました。この結果は、脳内ネットワークの双方向性と意識が関係している可能性を示唆しています。

今後の研究によって、脳内ネットワークの双方向性と意識の関係がより深く理解されれば、将来的に、意識障害などの理解や治療に役立つことが期待されます。

本研究成果は、協定世界時(UTC)2022年7月21日に科学誌「Cerebral Cortex」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 CREST

研究領域
「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」
(研究総括:雨宮 慶幸 高輝度光科学研究センター 理事長)

研究課題名
「情報網に潜む因果構造解析と高次元脳計測による意識メータの創出」
(JPMJCR1864)

研究代表者
小村 豊(京都大学 人間・環境学研究科 教授)

研究期間
平成30年10月~令和6年3月

JSTでは本領域で、計測・解析技術の深化による新たな科学の開拓や社会的課題の解決のために、多様な計測・解析技術に最先端の情報科学・統計数理の研究を高度に融合させることによって、これまでは捉えられなかった物理量・物質状態やその変化あるいは潜在要因などの検出、これまでは困難であった測定対象が実際に動作・機能している条件下でのリアルタイム計測などを実現するインテリジェント計測・解析手法の開発とその応用を目指します。

戦略的創造研究推進事業 ACT-X

研究領域
「AI活用で挑む学問の革新と創成」
(研究総括:國吉 康夫 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

研究課題名
「統合情報理論の劣モジュラ性に基づく拡張とその神経科学への応用」
(JPMJAX20A6)

研究代表者
北園 淳(東京大学 大学院総合文化研究科 特任研究員)

研究期間
令和2年12月~令和5年3月

JSTでは本領域で、理工系や人文社会系を含むあらゆる学問分野に最先端のAIなどの情報科学技術を取り込むことで格段に強化・発展させることや、AIなどの情報科学技術との融合による学問分野の革新や新たな学問領域の創成、新しい価値の創造を目指します。

戦略的創造研究推進事業 CREST

研究領域
「人間と調和した創造的協働を実現する知的情報処理システムの構築」
(研究総括:萩田 紀博 大阪芸術大学 アートサイエンス学科 学科長・教授)

研究課題名
「神経科学の公理的計算論と工学の構成論の融合による人工意識の構築とその実生活空間への実装」
(JPMJCR15E2)

研究代表者
金井 良太(株式会社アラヤ 代表取締役)

研究期間
平成27年10月~令和3年3月

JSTでは本領域で、人間と機械の協働により新たな知を創出し、人・集団の知的活動の質向上を実現する知的情報処理システムを目指した研究開発を推進します。本CREST研究課題はAIPチャレンジプログラムを含みます。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Bidirectionally connected cores in a mouse connectome: Towards extracting the brain subnetworks essential for consciousness”
DOI:10.1093/cercor/bhac143
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
北園 淳(キタゾノ ジュン)
東京大学 大学院総合文化研究科 特任研究員

大泉 匡史(オオイズミ マサフミ)
東京大学 大学院総合文化研究科 准教授

<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

宇佐見 健(ウサミ タケシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 先進融合研究グループ

前田 さち子(マエダ サチコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京大学 教養学部等総務課 広報・情報企画チーム

生物工学一般
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