2023-02-21 岡山大学,理化学研究所,東北大学,神戸大学,東京都立大学
◆発表のポイント
- クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析により、酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120(以下、アナベナ)の光化学系I(PSI)と集光性色素タンパク質IsiAから構成されるPSI-IsiA超複合体の立体構造を決定しました。
- アナベナPSI-IsiAはPSI単量体に6個のIsiAが結合しており、複合体の構成成分がこれまで報告されている他のシアノバクテリア由来PSI-IsiA構造と大きく異なることを見出しました。
- アナベナPSI-IsiA構造の特徴は、シアノバクテリアIsiAの多様性を示唆しており、光合成生物がどのように光捕集機構を獲得し、進化させてきたのかという謎を紐解く鍵になることが期待されます。
岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師(現静岡大学農学部准教授)、加藤公児特任准教授(現JASRI研究員)、沈建仁教授と理化学研究所放射光科学研究センターの米倉功治グループディレクター(東北大学多元物質科学研究所教授を併任)、浜口祐研究員(現東北大学多元物質科学研究所准教授)、川上恵典研究員の研究グループは、神戸大学の秋本誠志准教授、東京都立大学の得平茂樹教授、理化学研究所の堂前直ユニットリーダーとの共同研究により、クライオ電子顕微鏡を用いて、シアノバクテリアのアナベナ由来PSI-IsiA超複合体の立体構造解析に成功しました。他のシアノバクテリアのPSI-IsiA超複合体と比べると、IsiAサブユニットの発現および配置が大きく異なることを見出しました。シアノバクテリアにおけるIsiAの分子特性は、光合成生物の光捕集機構の進化を考察するうえで重要な指標となることが期待されます。本研究成果は日本時間2月17日、英国の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
図1. PSI-IsiAの立体構造
A:既に報告されているPSI三量体-IsiA構造。PSI(灰色)とIsiA(赤色)を図示した。ラベルされているPSIの単量体が三つ結合して三量体を形成する。単一遺伝子由来のIsiAが18個結合し(1~18の番号を付与)、リング状構造を形成する。
B:本研究で解明したPSI単量体-IsiA構造。PSIの単量体(灰色)に対して、6個のIsiAが結合する。IsiA2-1(赤色)、IsiA1-4(青色)、IsiA1-5(青色)はそれぞれの遺伝子を同定した。IsiA1-4およびIsiA1-5は同じ遺伝子産物である。緑色のIsiAは今回の研究では遺伝子を同定できなかった。この図から、IsiA2-1はPSI単量体間相互作用の境界に位置することがわかる。
◆研究者からひとこと
アナベナはIsiA遺伝子を4つ持ちます。これまでに報告されているPSI-IsiA構造を持つシアノバクテリアはIsiA遺伝子を1つしか持ちません。なぜシアノバクテリア種間でIsiA遺伝子の数が異なるのでしょうか?本研究は、IsiA遺伝子を複数種持つシアノバクテリアから調製したPSI-IsiAを構造解析した初めての報告になります。今後は、アナベナをモデルとし、集光性色素タンパク質の分子進化に踏み込んでいきたいです。
長尾特任講師
■論文情報
論 文 名:“Structure of a monomeric photosystem I core associated with iron-stress-induced-A proteins from Anabaena sp. PCC 7120”
「アナベナ由来のPSI単量体-IsiA超複合体の立体構造」
掲 載 紙:Nature Communications
著 者:Ryo Nagao1,8, Koji Kato1,9, Tasuku Hamaguchi2,10, Yoshifumi Ueno3,11, Naoki Tsuboshita1, Shota Shimizu1, Miyu Furutani3, Shigeki Ehira4, Yoshiki Nakajima1, Keisuke Kawakami2, Takehiro Suzuki5, Naoshi Dohmae5, Seiji Akimoto3, Koji Yonekura2,6,7, and Jian-Ren Shen1
URL/DOI:10.1038/s41467-023-36504-1
https://www.nature.com/articles/s41467-023-36504-1
1岡山大学・異分野基礎科学研究所
2理化学研究所・放射光科学研究センター
3神戸大学大学院・理学研究科
4東京都立大学大学院・理学研究科 生命科学専攻
5理化学研究所・環境資源科学研究センター
6東北大学・多元物質科学研究所
7理化学研究所・理研-JEOL連携センター
8現所属:静岡大学・農学部
9現所属:JASRI
10現所属:東北大学・多元物質科学研究所
11現所属:東京理科大学・教養教育研究院
■研究資金
本研究は、日本学術振興会「基盤研究」(課題番号:JP20K06528、JP20H02914)、日本学術振興会「萌芽研究」(課題番号:JP21K19085)、日本学術振興会「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP17H06433)、日本学術振興会「特別推進研究」(課題番号:JP22H04916)、武田科学振興財団、日本医療研究開発機構(AMED)医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)、JST未来社会創造事業(課題番号:JPMJMI20G5)の支援を受け実施しました。
<お問い合わせ>
静岡大学 農学部
准教授 長尾 遼 (ながお りょう)
理化学研究所 放射光科学研究センター
グループディレクター 米倉 功治 (よねくら こうじ)
(理化学研究所 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進プログラム
理研-JEOL連携センター 次世代電子顕微鏡開発連携ユニット ユニットリーダー, 東北大学 多元物質科学研究所 教授)
岡山大学 異分野基礎科学研究所
教授 沈 建仁 (しん けんじん)