2018-08-16 京都大学
椛島健治 医学研究科教授、松本玲子 同博士課程学生(研究当時)、大日輝記 同講師らの研究グループは、皮膚の表面にあるTRAF6という細胞内シグナル伝達物質が、乾癬(かんせん)の発症や持続に必須であることを発見しました。
本研究成果は、2018年8月9日に米国の国際医学誌「JCI Insight」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
大日 講師
京都大学の皮膚科学では乾癬の新しい治療標的を見つけました。当時大学院生だった松本玲子さんが中心となり、皮膚の表面の細胞にTRAF6という物質がない動物では乾癬という皮膚の病気にならないことを明らかにしました。乾癬の患者さんは世界に1億人以上いると見つもられていて、現在の治療の課題を克服できる新薬の開発に希望をもてます。
概要
乾癬の患者数は世界人口の約3%と非常に多く、近年、抗TNFα抗体など免疫の働きを抑える抗体を永続的に注射する治療が効果を上げていますが、治療費が高額であり、また使用中に抗体が効かなくなる患者の割合が2、3割にのぼる場合もあるため、新しい安価で安全な治療が求められています。
本研究グループは、皮膚の表面の表皮という部分に細胞内シグナル伝達物質「TRAF6」のないマウスは、乾癬にみられるような免疫の働きがおこらず、乾癬を発症しないことを発見しました。さらに、このマウスの皮膚にIL-23というサイトカイン(免疫調節因子)を注射して、乾癬に特徴的な免疫異常を誘導しても、やはり乾癬の発症は抑制されました。
本研究結果により、表皮の働きが、乾癬の皮膚にみられる免疫の異常な活性化に必須の役割をもつこと、また、皮膚の表面の細胞にあるTRAF6は、皮膚での異常な免疫の活性化による乾癬の発症やその持続に必須であることが明らかになりました。
本研究成果により、免疫の異常により産生される物質ではなく、その上流で免疫を調節する皮膚の働きが、新しい治療の標的となりうることが示されました。TRAF6が、抗体医薬に代わる新しい治療の標的となり、抗体医薬による治療のさまざまな課題を解決する可能性が期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
- 日本経済新聞(8月10日 34面)に掲載されました。