香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスの由来について

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大陸を渡る高病原性鳥インフルエンザウイルス

2018-01-24 農研機構

ポイント

農研機構動物衛生研究部門は、今年1月に香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスの全ゲノム解析を行い、このウイルスが昨冬にヨーロッパで流行したH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスとHxN6亜型鳥インフルエンザウイルスの遺伝子再集合ウイルスであることを明らかにしました。野鳥が運ぶ高病原性鳥インフルエンザウイルスが養鶏場内に侵入しない様に警戒が必要です。

概要

2018年1月11日に香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza: HPAI)1)の原因ウイルス(香川株)がH5N6亜型2)の高病原性鳥インフルエンザウイルス(highly pathogenic avian influenza virus: HPAIV)3)であることを明らかにしました。本ウイルスは、国際獣疫事務局(OIE)の定める静脈内接種試験で、鶏を24時間以内に殺す高い病原性を示しました。
香川株の全ゲノム配列を解読し、その8本の遺伝子分節4)について既知のA型インフルエンザウイルスと比較したところ、8本の遺伝子分節のうち7本は、昨年度ヨーロッパで流行したH5N8亜型HPAIVに由来し、NA遺伝子は、ユーラシア大陸の野鳥に分布しているHxN6亜型鳥インフルエンザウイルス(Hxとは、HA亜型が不明という意味)に由来していました。
2017年11月に島根県のコブハクチョウから分離されたH5N6亜型HPAIVとは、遺伝的に近縁でしたが明確に区別が可能です。このことは、本冬に国内に少なくとも2種類のH5N6亜型HPAIVが侵入していることを示しています。
本ウイルスの推定アミノ酸配列には、抗ウイルス剤であるノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性変異は見られませんでした。また、哺乳類に対する感染性を増加させる様な既知のアミノ酸変異も認められていません。
農研機構動物衛生研究部門では、今後本ウイルスの家禽への感染性、ウイルス排泄などを精査して行くことにしています。

背景

近年、我が国では2010−11年にH5N1亜型、2014-15年にH5N8亜型、2016−17年にH5N6亜型のHPAIVの侵入によって家禽でのHPAIが発生しています。これらのHPAIVは、2004年以降アジアを中心に家禽の間で流行しているH5亜型HPAIVと共通のHA遺伝子を持つことから、ユーラシア型H5亜型HPAIVと呼ばれています。2014年-15年、2016−17年には世界規模でユーラシア型H5亜型HPAIVによる発生が多発し、渡り鳥がウイルスの世界規模での運搬に関与していると考えられています。
2017年11月に島根県では死亡したコブハクチョウからH5N6亜型HPAIVが検出され、韓国でも11月以降、家禽や野鳥から同亜型のHPAIVが検出されています。これらのウイルスは、昨年度の冬にヨーロッパで流行したH5N8亜型HPAIVとユーラシア大陸に生息する野鳥の間に分布しているHxN6亜型の鳥インフルエンザウイルスの遺伝子再集合5)ウイルスであると報告されています。

内容・意義

  1. 香川県の農場から分離されたA型インフルエンザウイルス(香川株)がH5N6亜型HPAIVであることが確認されました。
  2. 香川株の8本全ての遺伝子分節が2017年12月にオランダでオオカモメから分離されたH5N6亜型HPAIV(オオカモメ株)と高い相同性を示しました(99%以上)。このうち1本の遺伝子分節(NA遺伝子)は、オオカモメ株と高い相同性(99%以上)を示すとともに、ユーラシア大陸に生息する鳥類の間で循環している鳥インフルエンザウイルスのNA遺伝子と近縁であることがわかりました。このことから、本ウイルスは昨年度の冬にヨーロッパで流行したH5N8亜型HPAIVとユーラシア大陸に生息する鳥類の間で循環しているHxN6亜型の鳥インフルエンザウイルスの遺伝子再集合ウイルスであると考えられます。
  3. 昨年11月に島根県ではコブハクチョウから同じくH5N6亜型HPAIV(コブハクチョウ株)が分離されていますが、香川株とオオカモメ株の遺伝子の相同性は、香川株とコブハクチョウ株(97~99%)よりも高いことから、この冬には国内に遺伝的に区別のできる2種類のH5N6亜型HPAIVが侵入したと考えられます。また遺伝子相同性の違いから2016−2017年冬季に発生したHPAIの起因ウイルスが国内で潜伏し、再興した可能性は否定されました。
  4. 以上のことから、2016−17年にヨーロッパで流行したH5N8亜型HPAIVが渡り鳥の繁殖期に営巣地であるシベリアに運ばれて、そこでHxN6亜型鳥インフルエンザウイルスと遺伝子再集合を起こし、H5N6亜型HPAIVとして渡り鳥の越冬期にオランダと日本に運搬されたと考えられます(図)。

今後の予定・期待

今回解読された遺伝子情報は、近日中に公共遺伝子データベースに公開されます。
農研機構の所有する動物衛生高度研究施設6)において、新たな遺伝子再集合ウイルスである香川株の家禽への病原性やウイルス排泄に関する研究を迅速に推し進めることは、国内のHPAI診断体制の一層の強化に繋がると期待されます。

用語の解説

1)高病原性鳥インフルエンザ
高病原性鳥インフルエンザウイルスによって引き起こされる鶏における高い致死率が特徴の家禽の疾病。

2)(A型インフルエンザウイルスの)亜型
ウイルス表面に存在する2つの糖タンパク質(赤血球凝集素タンパク:HA、ノイラミニダーゼ:NA)の種類によるウイルス分類法。HAには、H1からH18、NAにはN1からN11までの亜型が存在する。A型インフルエンザウイルスの種類はそれぞれの亜型を組み合わせて、H1N1、H3N2、H5N1等と記載する。

3)高病原性鳥インフルエンザウイルス
国際獣疫事務局(OIE)の規定による検査法によって鶏に高い致死率を示すA型インフルエンザウイルス。H5及びH7亜型の一部のウイルスが主。

4)遺伝子分節
ウイルスゲノムが複数の断片に分かれている場合に、それぞれの断片を遺伝子分節という。主にRNAウイルスゲノムで用いられる。

5)遺伝子再集合
インフルエンザウイルスは、そのゲノム分子として8本のRNA分節を持っている為、由来の異なる2つのインフルエンザウイルスが、同一の細胞に感染した場合、細胞質内でそれぞれのウイルスのゲノムの混合が起こることによって、新たなゲノム分子の組み合わせのウイルスが生じる現象。

6)動物衛生高度研究施設
農研機構が所有するBio-safety level-3(BSL-3)にあたる畜産上重要な感染症病原体を取り扱うことが認められた高度封じ込め実験施設。本施設は国際獣疫事務局(OIE)ならびに世界保健機構(WHO)のラボラトリー・バイオセイフティー基準に適合した国内有数規模を誇るBSL-3施設です。

参考図

香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスの由来について

問い合わせ先

研究推進責任者

農研機構動物衛生研究部門 研究部門長 坂本 研一

研究担当者

農研機構動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 西藤 岳彦

広報担当者

農研機構動物衛生研究部門 広報担当 吉岡 都
細胞遺伝子工学生物化学工学
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