先天性免疫異常の新たな治療法開発に道を開く
2020-02-05 広島大学,理化学研究所
本研究成果のポイント
- STAT1遺伝子の機能が過剰になる遺伝子変異(GOF変異)は、先天的な免疫の病気である慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMCD)を引き起こします。本症患者の一部は重篤な症状を呈しますが、疾患特異的な治療法がなく、病態に基づいた安全かつ効果的な治療法の開発が求められています。
- 本症の病態を解明するために、今までに患者で報告されているSTAT1-GOF変異の一つであるR274Q変異に相当する遺伝子変異を導入したマウス(GOF-Stat1R274Qマウス)を作製しました。
- GOF-Stat1R274Qマウスは、STAT1のリン酸化亢進、Th17細胞減少およびIL17産生低下、C. albicansの排除障害を示し、患者と同様の特徴を持つと考えられました。作製した変異導入マウスを用いた今後の研究により、本症患者の病態、治療法の開発が期待されます。
概要
本研究で対象としたSTAT1遺伝子の機能が過剰になる遺伝子変異(GOF変異)は、先天的な免疫の病気である慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMCD)の主要な原因であることが知られています。STAT1-GOF変異を持つ患者では、真菌の仲間であるCandida albicans (C. albicans) に繰り返し感染し、治癒しにくいことが知られています。
また、C. albicans以外の病原体にも容易に感染すること、自己免疫性疾患を合併すること、一部の重症例の予後が不良であることが分かってきました。そのため重症患者に対して、その病態に基づいた、より安全で効果的な治療法の開発が現在求められています。
この度、小林正夫(広島大学大学院医系科学研究科小児科学名誉教授)、岡田賢(同講師)、玉浦萌(同大学院生)らのグループ、佐藤尚子、大野博司、古関明彦(理化学研究所生命医科学研究センター)らの研究グループ、中山学、小原收(かずさDNA研究所)らの研究グループは、STAT1-GOF変異(R274Q変異)を導入したノックインマウス(GOF-Stat1R274Qマウス)を樹立し、患者の病態解明に有用であることを示しました。GOF-Stat1R274Qマウスは、STAT1のリン酸化亢進、Th17細胞減少およびIL17産生低下、C. albicansの排除障害を認め、患者と同様の特徴を示しました。さらに、これらのマウスでのC. albicansの排除障害に、Th17分化障害が重要な役割を果たすことが明らかになりました。
本研究成果は、「International Immunology」に公開されました。
図: C. albicans感染後のIL-17産生およびRORγt発現の解析
GOF-Stat1R274QマウスではIL-17産生低下とRORγt発現低下を認めた。
論文情報
- 掲載誌: International Immunology
- 論文タイトル: Human Gain-of-Function STAT1 Mutation disturbs IL-17 Immunity in Mice
- 著者名: Moe Tamaura, Naoko Satoh-Takayama, Miyuki Tsumura, Takaharu Sasaki, Satoshi Goda, Tomoko Kageyama, Seiichi Hayakawa, Shunsuke Kimura, Takaki Asano, Manabu Nakayama, Haruhiko Koseki, Osamu Ohara, Satoshi Okada*, Hiroshi Ohno*, Masao Kobayashi
* Corresponding Author (責任者) - DOI番号: 10.1093/intimm/dxz079
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学 大学院医系科学研究科 小児科学
岡田 賢
<報道(広報)に関すること>
広島大学広報グループ
理化学研究所広報室 報道担当