2021-04-15 東京大学,科学技術振興機構
ポイント
- 水晶体の細胞ではミトコンドリアや小胞体などの全ての細胞小器官が分解されるが、その仕組みや意義は不明であった。
- 水晶体細胞に存在する脂質分解酵素(PLAATファミリー)が細胞小器官を分解していることを発見し、この酵素が働かないと水晶体の透明化が損なわれることを見いだした。
- 一般的に細胞小器官はオートファジーによって分解されると考えられてきたが、本研究による新しい仕組みの発見は、細胞内分解システムの多様性の理解につながることが期待される。
東京大学 大学院医学系研究科の森下 英晃 助教(研究当時:現 同大学 大学院研究科 客員研究員/順天堂大学 大学院医学研究科 講師)、水島 昇 教授らの研究グループは、眼の水晶体を透明にする仕組みとして、新たな細胞内分解システムを発見しました。
眼の水晶体の細胞の成熟過程では、核やミトコンドリアなどの細胞小器官が分解されることが100年以上前から知られています。しかし、その仕組みや意義はほとんど解明されていませんでした。一般の細胞では、細胞小器官は主としてオートファジーによって分解されますが、水晶体細胞ではオートファジーによらないことが分かっていました。
今回、本研究グループは、生きたままのゼブラフィッシュの水晶体で、細胞小器官が分解される様子を捉えることに成功しました。さらに、小胞体、ミトコンドリア、リソソームなどの細胞小器官が、サイトゾルに存在する脂質分解酵素(PLAATファミリー酵素)によって分解されることを明らかにしました。この新しい細胞小器官分解システムはマウスの水晶体にも備わっており、ゼブラフィッシュ、マウスのいずれでも水晶体の透明化に必要であることが分かりました。本研究成果は、水晶体細胞の分化のメカニズムを明らかにするとともに、細胞内分解システムの多様性の理解につながると考えられます。
本研究成果は、2021年4月15日(英国夏時間)に科学誌「Nature」のオンライン版で公開されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究 ERATO「水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクト」(研究総括:水島 昇)などの支援を受けて行われました。
<論文タイトル>
- “Organelle degradation in the lens by PLAAT phospholipases”
- DOI:10.1038/s41586-021-03439-w
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
水島 昇(ミズシマ ノボル)
東京大学 大学院医学系研究科 教授
<JSTの事業に関すること>
内田 信裕(ウチダ ノブヒロ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課