丈夫かつ開閉可能なタンパク質ケージを開発~特異な形状と性質を有する網かご状ナノ粒子~

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2019-05-17 筑波大学,大阪大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  1. 新規網かご状タンパク質を開発し、その構造が特異な正多面体形状であることを明らかにしました。
  2. この網かご状タンパク質は、丈夫で安定でありながら、閉じたり開いたりすることが可能です。
  3. この化合物には2種類の鏡像関係にある会合様式があり、1:1の割合で生成することがわかりました。

国立大学法人筑波大学生存ダイナミクス研究センター(TARA)岩崎憲治教授、宮崎直幸助教(研究当時、大阪大学蛋白質研究所)、ヤギェウォ大学(ポーランド)Jonathan G. Heddle教授らの研究グループは、新たに開発した網かご状タンパク質について、最新鋭のクライオ電子顕微鏡注1)を用いた単粒子解析注2)により、その構造を明らかにしました。

TRAPと呼ばれる11量体のタンパク質に変異を入れ、金誘導体を加えたところ、非常に特異な、閉じた網かご状の正多面体(ケージ)の形成に成功しました。このケージは、加熱や変性剤にも強い反面、還元剤を加えるとバラバラになります。このように丈夫で安定な上に、閉じたり開いたりできるケージは、これまでありませんでした。さらに、このケージには鏡像の関係にある2種類の会合様式が存在し、それらが1:1の割合で溶液中に作られることもわかりました。本化合物を使って、薬剤の輸送などの応用が期待されます。

本研究の成果は、2019年5月9日付 英国科学誌「Nature」でオンライン公開されました。

*本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業(PDIS)「創薬等支援のためのタンパク質立体構造解析総合技術基盤プラットフォームによる支援と高度化」(研究期間:2012~2016年度)及び創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化(創薬等ライフサイエンス研究のための多階層構造生命科学解析技術の支援と高度化)」(研究期間:2017~2021年度)の支援によって実施されました。

研究の背景

タンパク質からなる、天然には存在しない閉じた網かご状の構造(ケージ)を人工的に作る試みは、これまで研究者の興味をかき立ててきました。しかし、ここには2つ問題がありました。一つは、閉じた集合体を作るための幾何学的要件を満たしたタンパク質がなかなか存在しないこと、もう一つは、ケージを作る多くのタンパク質が、複雑な化学結合のネットワークを形成するため、その構造を予測したり、シミュレーションすることが困難なことです。そのため、ケージのデザイン自体が非常に難しくなります。

本研究グループは、これら2つの問題をクリアしたケージの開発に成功し、その構造を、最新のクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって明らかにし、ケージがもつ類い希なる特性の仕組みを明らかにしました。

研究内容と成果

本研究グループは、金原子1個を「ホッチキス」として使うことで、タンパク質ケージ開発の問題を克服しました。リング状の11量体を形成するTRAPと呼ばれるタンパク質のブロックを、ホッチキスで留めることで直径22nmという非常に小さなケージを作製しました(図1)。このケージについて、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を行ったところ、非常に特異な、11回対称をした形状の正多面体を形成していることがわかりました。しかも、解析を進めていくと、ケージ構造が鏡像対称の関係にある、2種類の会合様式があることが判明し、双方の構造解析にも成功しました(図2)。さらに、このケージは、「閉じたり、開いたりの操作が可能」という特徴的な性質を持っていることが明らかとなりました。すなわち、いったんケージができれば、95℃で3時間加熱しても壊れず、通常のタンパク質では変成してしまう7Mの尿素条件にも耐える類い希な安定性も有する一方で、還元剤を加えるとバラバラになってしまいます。このような、タンパク質でできたナノ粒子の開発は、世界で初めてです。

今後の展開

このようなケージは、薬剤の輸送など、ナノサイズのオープン・クローズが必要なカプセル開発の基盤となる技術です。正多面体を形成しないと考えられていた形状のタンパク質を使って、ケージ作製に成功したということは、これまで検討されなかったタンパク質もケージを構成できる可能性があり、さらに薬剤輸送などに適したケージの開発が期待されます。

参考図

丈夫かつ開閉可能なタンパク質ケージを開発~特異な形状と性質を有する網かご状ナノ粒子~
図1 金原子によるホッチキス
青と黄緑は隣接するTRAP11量体リングの一部


図2 鏡像対称のケージ
同一試料溶液中にほぼ1:1の割合で形成される。

用語解説
注1)クライオ電子顕微鏡
ガラス状の氷に固定した試料を冷却したまま透過型電子顕微鏡で撮影する技法。
注2)単粒子解析
精製した生体分子を透過型電子顕微鏡で撮影し、その画像(投影像)から元の分子構造を再構築する技法。数千から100万枚を超える多数の分子投影像を扱う。
掲載論文
題名
An ultra-stable gold-coordinated protein cage displaying reversible assembly
(可逆的に集合可能な金でつなぎとめられた超安定タンパク質ケージ)
著者名
Ali D. Malay, Naoyuki Miyazaki, Artur Biela, Soumyananda Chakraborti, Karolina Majsterkiewicz, Izabela Stupka, Craig S. Kaplan, Agnieszka Kowalczyk, Bernard M. A. G. Piette, Georg K. A. Hochberg, Di Wu, Tomasz P. Wrobel, Adam Fineberg, Manish S. Kushwah, Mitja Kelemen, Primož Vavpetič, Primož Pelicon, Philipp Kukura, Justin L. P. Benesch, Kenji Iwasaki & Jonathan G. Heddle
掲載誌
Nature
DOI
10.1038/s41586-019-1185-4
お問合わせ先

岩崎 憲治(いわさき けんじ)
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター(TARA)教授

AMED事業について

日本医療研究開発機構(AMED)創薬戦略部 医薬品研究課

有機化学・薬学
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