糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬がNASHおよびNASH肝癌の発症を遅延・抑制

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糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬がNASHおよびNASH肝癌の発症を遅延・抑制することをマウスにおいて確認

2018-02-05 国立大学法人東京医科歯科大学,国立大学法人九州大学,国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 脂肪肝は、脂肪肝炎(NASH)を経て、肝細胞がん(NASH肝癌)に進展しますが、その予防に対する治療法が未確立でした。本研究により、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬カナグリフロジンが、ヒト肥満症患者と同様の糖脂質代謝障害を呈するNASHモデルマウスの脂肪肝、NASHおよびNASH肝癌の発症を遅延・抑制することを明らかにしました。
  • カナグリフロジンが脂肪細胞のエネルギー蓄積能を増加させ、肝臓への脂肪蓄積を減少させることを明らかにしました。
  • この成果は、既に糖尿病治療薬として臨床応用されているカナグリフロジンがNASHおよびNASH肝癌の予防に有用である可能性を示すものです。

概要

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野・九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野の小川佳宏教授、東京医科歯科大学医学部附属病院の土屋恭一郎助教(現・山梨厚生病院)、同大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝内科の柴久美子大学院生らの研究グループは、九州大学、名古屋大学、田辺三菱製薬との共同研究により、2型糖尿病の治療薬として既に臨床応用されているSGLT2阻害薬カナグリフロジンの経口投与が、脂肪肝からNASHを経てNASH肝癌の発症を遅延・抑制することをマウスにおいて初めて見出しました(図1)。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」研究開発領域における研究開発課題「細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻による組織線維化の制御機構の解明と医学応用」(研究開発代表者:小川佳宏)※の一環で行われました。本研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)に、2018年2月5日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

※なお、本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。


図1:カナグリフロジンはNASHモデルマウスの脂肪細胞のエネルギー蓄積能を増加させ、肝臓でNASHおよびNASH肝癌の発症を遅延・抑制する

研究の背景

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)はメタボリックシンドロームの肝臓での表現型と考えられており、進行すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)を経て肝硬変や肝細胞癌(NASH肝癌)に至ります。しかしながら、NAFLDの発症・進展予防には、減量以外に確立された治療法がないことが大きな問題となっています。

SGLT2阻害薬注1)カナグリフロジンは2型糖尿病に対する治療薬として、既に臨床現場において使用されています。研究グループは既に、SGLT2阻害薬が肥満マウスの脂肪組織重量の増加を伴って脂肪肝を抑制することを報告していました。しかしながら、NASHおよびNASH肝癌に対する効果は不明でした。今回、研究グループが独自に開発したNASHモデルマウス注2)を用いて、SGLT2阻害薬カナグリフロジンのNASHおよびNASH肝癌に対する予防効果を検討しました。

研究成果の概要

研究グループは、NASHモデルマウスにカナグリフロジンを経口的に投与することにより、脂肪肝、NASH、およびNASH肝癌の発症を遅延・抑制することを見出しました(図2)。さらに、カナグリフロジンはNASHモデルマウスの脂肪組織におけるグルタチオン代謝を還元型グルタチオン注4)優位に変化させ、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させることを明らかにしました。

図2:カナグリフロジンはNASHモデルマウスの肝線維化および肝癌(黒矢印)発症を遅延・抑制する

研究成果の意義

本研究により、既存の糖尿病治療薬が、NASHモデルマウスの脂肪肝からNASHを経たNASH肝癌の発症を遅延・予防することが明らかになりました。更に、腎臓からのグルコースの尿中排出の結果、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させて肝臓の脂肪蓄積を抑制するものと考えられ、臓器代謝ネットワークを介した新たなエネルギー代謝制御機構が示唆されました。本研究により、脂肪肝、NASH、およびNASH肝癌の発症遅延・予防法の開発が期待されます。

注1)SGLT2阻害薬:
腎臓の近位尿細管においてsodium glucose cotransporter 2(SGLT2)を阻害し、グルコースの再吸収を阻害することによりグルコースの尿中排出を促進し、インスリン作用とは独立した血糖降下作用をもつ2型糖尿病治療薬です(図3)。

図3:SGLT2阻害薬の作用機序
注2)NASHモデルマウス:
中枢性摂食調節に関与するメラノコルチン4型受容体の欠損マウスに高脂肪食または高ショ糖食を負荷することにより、ヒト肥満症患者と同様の糖脂質代謝障害を呈し、脂肪肝からNASH様肝病変、多発性の肝細胞癌を発症します(Am. J. Pathol. 179: 2454-2463, 2011)。
注3)
線維成分が赤く染まるシリウスレッドという色素で染色した肝臓の顕微鏡写真です。
注4)グルタチオン:
グルタチオンには還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)があり、GSHとGSSG の比率(GSSG/GSH)は、酸化ストレスの指標として考えられています。GSHは細胞障害につながる活性酸素種を消去する働きを持ちます。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
論文タイトル:
Canagliflozin, an SGLT2 inhibitor, attenuates the development of hepatocellular carcinoma in a mouse model of human NASH

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野
小川 佳宏(オガワ ヨシヒロ)

AMEDに関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

九州大学広報室

 

 

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