メダカのセントロメアDNA配列の部分的解読に成功

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染色体の交差部位(セントロメア)が進化のカギ

科学技術振興機構(JST)
東京大学

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学の森下 真一 教授らと武田 洋幸 教授らは、長いDNA断片の解読技術を改良し、脊椎動物のモデル生物であるメダカのセントロメアDNA配列の約10%(約100万塩基)を解読することに成功しました。
21世紀に入りヒトをはじめとする哺乳類を含む、脊椎動物のDNA配列の解読が進みましたが、完全には解読されておらず、いまだに脊椎動物のDNA配列には数百から数十万の解読できていない領域が残されています。とりわけ、セントロメア注1)と呼ばれる長い領域は未解読のままでした。

本研究グループは、数万の塩基のDNA断片を解読する装置を活用し、DNA断片の解読を行いましたが、1分子のDNAを直接観測するためノイズが入るといった難点がありました。今回、ノイズを取り除くために複数の補完的な手法で補正した結果、脊椎動物のモデル生物であるメダカを対象に、セントロメアのDNA配列の約10%(約100万塩基)を解読することに成功しました。また、セントロメア配列のCpGメチル化注2)状態の解析技術についても開発し、染色体の中心に近いほど塩基変異が有意に蓄積されることを明らかにしました。ヒトゲノムの約1~2%はセントロメア配列が占めると推定されていますが未解明であり、今回のメダカゲノムの研究はその解明への手がかりにもなると期待されます。

本研究成果は、2017年11月28日(英国時間午前10時)発行の国際科学誌「Nature Communications」に掲載されます。

<参考図>

今回の成果の概念図

今回の成果の概念図

性決定遺伝子および発生生物学などの研究に1世紀近く役立ってきたメダカが、セントロメアDNA配列の生物学的な意義の解明のためにも重要なモデル生物になると期待されている。

図1

図1

(a)種分化の過程にある3つの近交系メダカの地理的由来と進化系統樹。MYAは百万年前を意味する。

(b)3つの近交系メダカの2番染色体でのセントロメア位置が保存されている。●はセントロメアの位置。

(c)セントロメアを蛍光色素で染色した顕微鏡写真。

図2

図2

(a)3.2〜3.5億年前の真骨魚類の全ゲノム重複のときに重複した染色体の中で、染色体間の大規模な変化が起こらなかった5つの染色体の組の内、4つ染色体の組において、セントロメアの位置は保存されている。●がセントロメアの位置を示す。番号は染色体番号を示し、染色体中の空白は全ゲノム重複前の領域との対応情報が不足している領域を示す。

(b)セントロメアは染色体の中心だけでなく、末端部分(acrocentric)にも存在するが、中心に近いほど塩基の変異が有意に蓄積されやすい。

 

<用語解説>
注1) セントロメア
染色体の短腕と長腕が交わる位置。染色体の中心に位置することが多いが、末端に存在する場合もある。ヒトゲノムの場合は171塩基前後のαサテライト配列が数千回から数万回繰り返していると考えられているが、未解明である。脊椎動物での繰返し配列の基本単位は種によって異なり多様であると考えられるが、未解明である。他のDNA領域に比べるとセントロメアの進化速度は非常に速く、5千万年以上前に分岐した生物種のセントロメア配列を比較すると、その相同性は25%まで落ちることが報告されている。
注2) CpGメチル化
DNA塩基のシトシンのメチル化とは、5位の炭素原子にメチル基が付加する反応である。脊椎動物ではシトシンのメチル化の殆どがCpG部位で起こるため、特にCpGメチル化と呼ばれる。CpGメチル化は発生に必須であり、X染色体の不活性化、トランスポゾンの抑制、遺伝子発現の制御、ゲノム刷り込みなどのさまざまな機能にも関与する。セントロメア領域に代表される繰り返し配列でCpGメチル化を観測することはこれまで難しかった。
注3) αサテライト配列
ヒトゲノムのセントロメア部分を構成する171塩基前後の基本単位。数千回から数万回繰り返していると考えられている。
注4) 全ゲノム重複
ゲノム全体が重複する現象。例えば脊椎動物が分岐した初期のころ、全ゲノム重複が2回起こり、各遺伝子を4倍に増やし、脊椎動物の繁栄をもたらしたと考えられている。4倍に重複された個々の遺伝子は、進化の過程で新しい機能を獲得することもあり、一方で不要になる場合(偽遺伝子化)もある。哺乳類ゲノムではその痕跡が残り、1つの遺伝子に対して類似度が有意に高い配列が4つ見つかる場合が多い。脊椎動物内では、3.2〜3.5億年前に真骨魚類の祖先でさらにもう1回全ゲノム重複が起こっている。
<論文情報>

タイトル “Centromere evolution and CpG methylation during vertebrate speciation”
(種分化過程での、セントロメア領域の進化とCpGメチル化)

著者名 Ichikawa K, Tomioka S, Suzuki Y, Nakamura R, Doi K, Yoshimura J, Kumagai M, Inoue Y, Uchida Y, Irie N, Takeda H, Morishita S.

掲載誌 Nature Communications  doi 10.1038/s41467-017-01982-7

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生物工学一般細胞遺伝子工学
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