2020-03-13 岡山大学,農研機構,かずさDNA研究所
◆発表のポイント
- サツマイモは世界中で栽培されている重要な作物ですが、その収量や品質に甚大な影響を及ぼす有害線虫の被害が問題視されています。
- 遺伝解析の難しかったサツマイモで、有害線虫の抵抗性に関わる遺伝子領域を明らかにし、さらには抵抗性個体を高効率で選抜できるDNAマーカーを開発しました!
- 開発したDNAマーカーを用いれば、抵抗性品種の効率的な育成が可能になると期待されます。
岡山大学大学院環境生命科学研究科の門田有希准教授、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)九州沖縄農業研究センターの田淵宏朗上級研究員、かずさDNA研究所の白澤健太主任研究員らの共同研究グループは、遺伝解析の難しかったサツマイモで、有害線虫への抵抗性個体を高い効率で選抜可能なDNAマーカーを開発することに成功しました。
サツマイモは世界的に重要な作物の一つですが、線虫の感染被害を受けると収量や品質が大きく低下することが知られています。実際の生産現場では線虫の発生を抑制するため農薬を用いた土壌消毒などによる防除が行われていますが、コストがかかる、あるいは消毒作業により刺激臭が発生するなど、さまざまな問題点が指摘されています。そこで、線虫防除用の農薬を減らして、または使用せずに栽培できる、抵抗性品種の作出が望まれています。しかしながら、サツマイモは倍数性という特徴を示すため遺伝様式が複雑で、DNA情報を利用した遺伝解析や品種育成は極めて困難でした。このような状況において本研究では、次世代シーケンサーを用いた大規模な遺伝解析により、線虫抵抗性に関わる遺伝子領域を効率的に特定し、さらに抵抗性個体を高効率で選抜可能なDNAマーカーを開発しました。
本研究は、多くの作物種が抱える倍数性という遺伝解析における障壁を克服し、実学的な技術を開発した点において学術的意義が高いと思われます。本研究成果は、2019年8月3日に英国のオンライン科学雑誌「DNA research」に掲載されました。
◆研究者からのひとこと
この研究に関するプロジェクトを始めてから良好な結果が出るまで5年もかかりました!紆余曲折ありましたが、結果的に良いDNAマーカーを開発することができ、本当にうれしく思っています。共同研究者の方々、そしてこの研究に携わってくれた学生さんたちのおかげです。これからもサツマイモの遺伝育種に関わる研究を活発に進めていきたいと思います。
■論文情報
論 文 名:Development of molecular markers associated with resistance to Meloidogyne incognita by performing quantitative trait locus analysis and genome-wide association study in sweetpotato
掲 載 紙:DNA Research
著 者:Rumi Sasai, Hiroaki Tabuchi, Kenta Shirasawa, Kazuki Kishimoto, Shusei Sato, Yoshihiro Okada, Akihide Kuramoto, Akira Kobayashi, Sachiko Isobe, Makoto Tahara, Yuki MondenD O I:10.1093/dnares/dsz018
<詳しい研究内容について>
遺伝解析の難しかったサツマイモで 線虫抵抗性個体を高効率に選抜可能な DNA マーカーの開発に成功!
◆発表のポイント
・サツマイモは世界中で栽培されている重要な作物ですが、その収量や品質に甚大な影響を及ぼす有害線虫の被害が問題視されています。
・遺伝解析の難しかったサツマイモで、有害線虫の抵抗性に関わる遺伝子領域を明らかにし、さらには抵抗性個体を高効率で選抜できる DNA マーカーを開発しました!
・開発した DNA マーカーを用いれば、抵抗性品種の効率的な育成が可能になると期待されます。
岡山大学大学院環境生命科学研究科の門田有希准教授、農業・食品産業技術総合研究機構(農研 機構)九州沖縄農業研究センターの田淵宏朗上級研究員、かずさ DNA 研究所の白澤健太主任研究 員らの共同研究グループは、遺伝解析の難しかったサツマイモで、有害線虫への抵抗性個体を高 い効率で選抜可能な DNA マーカーを開発することに成功しました。
サツマイモは世界的に重要な作物の一つですが、線虫の感染被害を受けると収量や品質が大き く低下することが知られています。実際の生産現場では線虫の発生を抑制するため農薬を用いた 土壌消毒などによる防除が行われていますが、コストがかかる、あるいは消毒作業により刺激臭 が発生するなど、さまざまな問題点が指摘されています。そこで、線虫防除用の農薬を減らして、 または使用せずに栽培できる、抵抗性品種の作出が望まれています。しかしながら、サツマイモは 倍数性 1)という特徴を示すため遺伝様式が複雑で、DNA 情報を利用した遺伝解析や品種育成は極 めて困難でした。このような状況において本研究では、次世代シーケンサーを用いた大規模な遺 伝解析により、線虫抵抗性に関わる遺伝子領域を効率的に特定し、さらに抵抗性個体を高効率で 選抜可能な DNA マーカーを開発しました。
本研究は、多くの作物種が抱える倍数性という遺伝解析における障壁を克服し、実学的な技術 を開発した点において学術的意義が高いと思われます。本研究成果は、2019 年 8 月 3 日に英国のオンライン科学雑誌「DNA research」に掲載されました。
◆研究者からのひとこと
この研究に関するプロジェクトを始めてから良好な結果が出るまで 5 年 もかかりました!紆余曲折ありましたが、結果的に良い DNA マーカーを開 発することができ、本当にうれしく思っています。共同研究者の方々、そし てこの研究に携わってくれた学生さんたちのおかげです。これからもサツマイモの遺伝育種に関わる研究を活発に進めていきたいと思います。
■発表内容
<現状>
サツマイモはアジア、アフリカ、中南米などで盛んに栽培されている重要な作物です。栽培しやすく栄養価も高いため、発展途上国では重要な栄養供給源となっています。このサツマイモの収量や品質に甚大な被害をもたらす土壌性有害線虫として、サツマイモネコブセンチュウが知られています。この線虫は、国内の主要な生産地で発生が確認されています。歴史的には 1940 年代に日本で深刻な被害があり、サツマイモの収量が半減あるいは皆無になった地域もありました。現状では、土壌消毒を使った防除が行われていますが、土壌消毒を行うことで刺激臭が発生することや、労力・コストがかかること、また抵抗性が崩壊するケースがあるなど、さまざまな問題点が指摘されています。そこで、土壌消毒の使用量を減らす、あるいはまったく使わずに栽培可能な抵抗性品種の育成が求められています。しかしながらサツマイモは、倍数性という特徴をもつため遺伝的に複雑で、
遺伝情報を利用した品種育成は極めて困難でした。
<研究成果の内容>
本研究グループは、この遺伝解析が難しかったサツマイモを対象に次世代シーケンサーを利用した大規模な遺伝解析を行いました。サツマイモゲノムにおける数千の DNA 多型情報を解析し、ゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study:GWAS)や高密度な連鎖地図の作成、QTL 解析などを実施しました。その結果、抵抗性を制御すると想定される遺伝子領域を明らかにすることができました。興味深いことに、線虫にはいくつかのレース(種類)が知られていますが、今回わたしたちが見つけた遺伝子領域は、これら複数レースの抵抗性を制御すると考えられました。さらに、見つかった遺伝子領域の DNA 配列情報から、実際の育種現場で使える選抜 DNA マーカーの開発にも成功しました。このマーカーを使えば、複数のレースに対して、サツマイモ植物体が抵抗性か感受性かを高い確率で見分けることができます。
<社会的な意義>
今回わたしたちは、サツマイモという遺伝的に複雑な対象でもゲノムレベルでの解析が可能であることを示しました。倍数性という特徴は、サツマイモを含め、多くの植物種で見られます。この特徴は、遺伝育種学的な研究を行う上で大きな障壁となっていました。本研究では最新のテクノロジーを活用することでこの障壁を克服し、実用的な技術開発を行うことができました。本研究で得られた知見を活かすことで、今後ますます DNA 情報を活かした品種育成や DNA マーカー選抜育種が活発になっていくと考えられます。
■論文情報
論 文 名:Development of molecular markers associated with resistance to Meloidogyne incognita by
performing quantitative trait locus analysis and genome-wide association study in sweetpotato
掲 載 紙:DNA Research
著 者:Rumi Sasai, Hiroaki Tabuchi, Kenta Shirasawa, Kazuki Kishimoto, Shusei Sato, Yoshihiro Okada, Akihide Kuramoto, Akira Kobayashi, Sachiko Isobe, Makoto Tahara, Yuki Monden
D O I:10.1093/dnares/dsz018
■研究資金
本研究は、農林水産省「ゲノム情報を活用した農産物の次世代生産基盤技術の開発プロジェクト」(SFC3003)の支援を受けて実施しました。
■補足・用語説明
1) 倍数性:基本数の正数倍にあたる染色体数を持つ現象で、二倍体よりも多い種を指す。例えばサツマイモは六倍体(2n=6x=90)である。植物では、倍数性を示す種が多いことが知られている。
<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)
准教授 門田 有希