2020-12-21 国立遺伝学研究所
Combined Change of Behavioral Traits for Domestication and Gene‐Networks in Mice Selectively Bred for Active Tameness
Yuki Matsumoto, Hiromichi Nagayama, Hirofumi Nakaoka, Atsushi Toyoda, Tatsuhiko Goto, Tsuyoshi Koide
Genes Brain Behav. 2020 December 13 DOI:10.1111/gbb.12721
動物の家畜化に重要な役割を果たす従順性は、能動的従順性と受動的従順性の2つの要素に分けることができます。8系統の近交系を遺伝的に混ぜた野生由来の混合集団を使用して、より高い能動的従順性を示す個体の選択交配を実施しました(図1A)。従順性を定量化する行動テストにより得られる9つの行動特性について分析したところ、5つの特性が世代を通じて対照群と比較して選択群で変化したことがわかりました。
そこで、 9つの特性間の関係を評価するためのクラスター分析を実施しました。その結果、選択対象とした能動的従順性は、対照群において他の行動特性に隠れてみられなかったものの、選択集団では顕著にみられるようになりました。このような能動的従順性の変化に関連する分子ネットワークを明らかにするために、家畜化に関連すると考えられる脳の海馬領域における遺伝子発現の解析を実施しました。その結果、高い能動的従順性を示す選択群と対照群では、136の遺伝子で発現量の違いが検出され、それにより遺伝子ネットワークの変化がみられることが分かりました(図1B)。
この結果は、選択交配によるマウスの家畜化で、脳の遺伝子発現の変化が生じて、それにより高い能動的従順性を示すようになったことを示唆しています。
本研究は、国立遺伝学研究所マウス開発研究室(小出研究室)の元大学院生松本悠貴(現アニコム先進医療研究所株式会社)と他の共著者らが行いました。科学研究費補助金15H01298, 15H05724, 16H01491, 15H04289, 24658240、日本学術振興会特別研究員奨励費(15J03197)などの助成により実施されました。
図:野生由来の遺伝的混合集団を4つの集団に分けて、2つの集団について能動的従順性について選択し、他の2つの集団は選択をしない対照群としました。A:世代が進むにしたがって、2つの選択集団では能動的従順性が増加していくのに対して、2つの対照群では顕著な増加は見られませんでした。B:選択群と対照群のマウスの脳(海馬)から採取したサンプルを用いてRNA-seq解析を行いました。その結果、選択群と対照群で発現量の異なる遺伝子が見いだされ、遺伝子ネットワークの違いも見出されました。