祖先的血管の再構成で進化した、陸上脊椎動物の心臓を支える新規な冠動脈

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2023-08-22 東京大学

発表のポイント
◆胚発生を用いた実験や比較によって、哺乳類の心臓を維持するために不可欠である冠動脈が、羊膜類(哺乳類、鳥類、爬虫類)の共通祖先で進化したことを発見した。
◆両生類、真骨魚類や軟骨魚類では胚で一次的に生じた血管がそのまま心臓に分布するのに対し、羊膜類では一次的な血管が発生過程で再編され、進化的に獲得した新たな入口部を形成することで冠動脈が成立する。
◆本研究結果は、脊椎動物の陸上進出にともなう生理的変化への理解を深めるとともに、冠動脈形成異常などの心疾患の成因に洞察を与えるものである。


ウズラの心臓に分布する冠動脈の走行

発表概要

東京大学大学院医学系研究科の水上薫大学院生(研究当時)、東山大毅特任研究員、栗原裕基教授を中心とする研究チームは、哺乳類や鳥類、両生類、魚類など様々な動物の発生過程の比較をおこない、われわれの心臓に分布する冠動脈の進化的起源について新たな説を導きました。冠動脈とは心臓自体を栄養する血管系であり、この血管の閉塞がヒトの心筋梗塞の主な原因であるなど、正常な冠動脈は哺乳類の生存に不可欠なものです。しかし、その進化過程はこれまでよく分かっていませんでした。本研究では、われわれがもつタイプの冠動脈は羊膜類(哺乳類、鳥類、爬虫類を含むグループ)の祖先で初めて成立したものである可能性を示唆しています。羊膜類では、まず発生の過程で「ASV(aortic subepicardial vessels; 大動脈心外膜下血管)」という一次的な血管が鰓弓動脈(注1)から生じ、それが二次的に再構成されることによって心臓に近い位置に新たな冠動脈が作られます。これに対し、カエルやイモリなどの両生類では、ASV 様の血管が生じるものの再構成が起こらず、同じ血管を成体でも使い続けていることが判明しました(図1)。また、多くの真骨魚類やサメにも心室表面には動脈の存在が知られており、長い間これらも「冠動脈」と呼ばれてきました。しかし、こうした魚の「冠動脈」は鰓弓から伸びて心臓に分布しており、羊膜類型冠動脈よりもむしろ ASV に近い構造であることが示唆されました。これらの結果は、われわれのもつ羊膜類型冠動脈のような生理機能に重要な構造が、脊椎動物の陸上進出ののち鰓の再編とともに新しく生まれた要素であることを意味します。同時に、本結果は冠動脈が頸部から枝分かれする状態など、いくつかの先天性心疾患の発症メカニズムを説明するものです。


図 1:鰓の再編とともに羊膜類で冠動脈が成立する

詳しい資料は≫

生物化学工学
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