ヒト大脳新皮質の進化過程を解き明かす
2020-06-25 慶應義塾大学医学部,実験動物中央研究所,理化学研究所
マックスプランク分子細胞生物学遺伝学研究所のウィーランド・フットナー教授、ミヒャエル・ハイデ研究員、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授(兼 理化学研究所脳神経科学研究センター〈CBS〉マーモセット神経構造研究チーム チームリーダー)、村山綾子特任助教(兼CBS客員研究員および実験動物中央研究所兼任研究員)、実験動物中央研究所の佐々木えりか部長、黒滝陽子室長、篠原晴香研究員のグループは以下の研究を行い、ヒトに特異的な脳の拡大の機序を解明しました。
まず、ヒトにしか存在しない遺伝子であるARHGAP11Bを、本来健常人で発現している生理的に近い量で発現する非ヒト霊長類であるコモンマーモセット(以下、ARHGAP11B遺伝子導入マーモセット)を作製しました。胎生後期の脳の解剖学的解析と神経系細胞の定量的解析を行ったところ、ARHGAP11B遺伝子導入マーモセットでは脳のシワ(脳回脳溝構造)が本来ない場所に形成され、GI指数(脳の凹凸を示す指数)が野生型の約1.1倍に増高していました。これは、神経前駆細胞の一種であるbRG細胞の増加に伴って、脳表面積の拡大に寄与している脳表近く(浅層)の神経細胞が約20%増加していることに起因することが分かりました。以上の結果から、今回、研究グループは、ARHGAP11Bはチンパンジーに至る進化系統から分岐したあとの、ヒトの進化過程における大脳新皮質の拡大と脳回脳溝構造の増加をもたらした原因遺伝子であることを明らかにしました。すなわち、ARHGAP11Bによってもたらされた大脳新皮質の拡大は、ヒトに特徴的な脳機能の獲得に関連していると考えられます。
本研究成果は、2020年6月18 日(中央ヨーロッパ時間CEST)、学術科学雑誌『Science』に掲載されました。