植物の香りを用いた新しい害虫防除法
2020-12-02 京都大学
高林純示 生態学研究センター教授、上船雅義 名城大学准教授、安部順一朗 農研機構西日本農業研究センター上級研究員、塩尻かおり 龍谷大学准教授、浦野知 株式会社ペコIPMパイロット代表、長坂幸吉 農研機構中央農業研究センターグループ長らの研究グループは、ハウス栽培のミズナを対象に、アブラナ科葉菜類の害虫「コナガ」によって食害された植物が放出する香りのブレンドを人工的に作成した天敵誘引剤と、天敵への給餌容器をハウス内に設置することで、土着天敵である「コナガサムライコマユバチ」を周辺により誘引し、ハウスにおけるコナガ発生率を抑制できることを実証しました。
植物は、植食性昆虫(害虫)から食害を受けると特異的な香りを放出し、その天敵(捕食者や寄生蜂など)を誘引することで身を守ることができます。害虫の食害を受けた植物(被害植物)の香りのブレンドは、害虫の種によって変化します(香りの害虫特異性)。さらに天敵はその変化に対応して、特定のブレンドに誘引される場合があります。
本研究グループは、この害虫特異性に注目し、その応用の可能性をアブラナ科野菜の重要害虫のコナガを標的にして研究しました。これまでにコナガが食害したキャベツが放出する香り成分中の4成分をブレンドすることで、コナガの土着天敵であるコナガサムライコマユバチを誘引できることを報告しました。本研究では、4成分を剤形化した天敵誘引剤と、誘引した天敵をハウス内で維持するための給餌容器を用いた実証試験を行いました。その結果、ハウスの周辺環境のコナガサムライコマユバチを誘引・給餌することで、ハウスにおけるコナガ発生率を半分程度以下に抑制できました。この成果は、食害植物の香りの特異性と土着天敵を利活用し、標的害虫の管理に世界で初めて成功したものです。
本研究成果は、2020年11月11日に、国際学術誌「Royal Society Open Science」のオンライン版に掲載されました。
自然界における植物の自己防衛システム(右)と本研究で開発した技術による植物防御システム(左)
研究者名:高林 純示