AIによる自動培養制御システムを開発~微生物による機能性食品素材の生産で熟練者を約10%上回る生産量を達成~

ad

2023-09-04 新エネルギー・産業技術総合開発機構

NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(以下、本事業)で(株)ちとせ研究所は、微生物による機能性食品素材の生産で、従来の熟練者の五感や経験に応じた「匠(たくみ)の技」に代わる、データを学習した人工知能(AI)による自動培養制御システム(以下、本システム)を開発しました。

本システムを使用した、機能性食品素材の生産性実証試験の結果、(株)ちとせ研究所と協和発酵バイオ(株)は最適な培養状態を高精度かつリアルタイムに自動制御でき、熟練者を約10%上回る生産量の達成を評価、検証しました。

今後、本事業で(株)ちとせ研究所は、本システムの開発を継続し、2027年度までの製品化を目指します。

新技術の開発コンセプトは従来型データと「匠」の感覚と経験値による培養制御からビックデータとAIによる培養制御へ高精度化すること。

図1 新規技術の開発コンセプト

1.背景

食品素材などの発酵生産では最適な培養条件の設定など安定的な生産のために熟練者の知恵やノウハウ、五感を駆使した、いわゆる「匠の技」が必要でした。一方で、このような熟練者の「匠の技」の継承や習得には非常に長い時間が必要なこと、熟練者の高齢化や海外生産による技術の流出などが日本のバイオエコノミー産業において大きな問題になっていることから、熟練者に代わって安定的に生産できる技術の開発が急務となっています。

このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2020年度から本事業※1で次世代バイオプロセス技術の開発に取り組んでいます。その一環として、株式会社ちとせ研究所(以下、ちとせ研究所)は、微生物による物質生産で、従来の熟練者の五感や経験に応じた「匠の技」に代わり、温度やpH※2などの従来データに色や匂いなどの匠の感覚をデータとして加えたビッグデータ(コンボリューショナルデータ※3)を学習したAIが培養制御を行うシステムを開発※4しました。本システムを使用した機能性食品素材※5の生産性実証試験の結果、ちとせ研究所と協和発酵バイオ株式会社(以下、協和発酵バイオ)は、リアルタイムで培養条件を制御することにより、培養状態の最適化と、熟練者を超える高い生産量を達成できることを評価、検証しました。

2.今回の成果

本事業では、ちとせ研究所がセンサーデバイスの開発・実装とAIモデルの構築を、協和発酵バイオが学習データの取得とAI自動培養試験を担当しました。

(1)センサーデバイスの開発と培養状態を予測するAIモデルの構築

従来の微生物培養制御では、培養槽内に設置した各種センサーから得たデータと目的化合物の生産量や菌体量との因果関係から、熟練者が最適な培養条件を求め、その内容を基に培養制御を行ってきました。本事業でちとせ研究所は、より高精度な自動制御を実現するため、AIに培養槽内の制御パラメーターと生産量の関係を詳細に学習させ、多種多様な新規のセンサーデバイスを独自に開発しました。この独自デバイスから得られるコンボリューショナルデータを学習し、培養状態を予測するAIモデルを構築しました。このAIモデルによって推論された培養条件を下に、熟練者に代わって高精度で最適な培養状態を自動制御できるようになりました(図2)。

AIによる自動培養制御システム概要図

図2 AIによる自動培養制御システム概要図

(2)機能性食品素材の高い生産量を達成

今回開発したAIによる自動培養制御システムを評価・検証するため、ちとせ研究所と協和発酵バイオは機能性食品素材の生産性の実証試験を行いました。実証試験の結果、本システムが、リアルタイムで培養条件を制御し、培養状態を最適化することで、熟練者の生産量を約10%上回る生産性を達成できました(図3)。

具体的には、培養槽内のリアルタイムデータを取得し、構築したAIモデルによって最適な培養条件を推論し、培養槽内のpHや温度を変化させる制御までの一連の工程を自動で行いました。本培養系の生産性を最大化させるためには、菌体量が増えすぎない状態に制御することが不可欠です。通常は熟練者が栄養源の供給量を制御することで菌体量を最適値にして目的物質の生産量が最大になるように制御します。一方で、本システムではpHと温度の二つをAIにより制御することで菌体量を最適な量に抑えることに成功しています。また、人が最適化を行う場合はpHや温度を細かく変化させるような制御をしないところ、本システムで予測して適用した制御は一定値ではなく経時的に変更させているところが特徴です。

図3のとおり、AI制御(赤線)が示すpHや温度変化が実験ごとに異なっており一定ではないにもかかわらず、濁度(OD)※6で示される菌体量や生産量が安定した結果に至っています。これは、「同じように仕込んでも違う結果になってしまう」という培養の安定性が保たれない状況に対して、本システムを活用すれば安定化できる可能性があることを示しています。熟練者が最適化した培養条件を超えるには壁があると思われていましたが、本システムによってさらに上回る可能性を示すデータが得られたことが大きな成果となります。

AIによる自動培養制御システムの実装評価結果を表すグラフ画像

図3 AIによる自動培養制御システムの実装評価結果

3.今後の予定

本事業でちとせ研究所は、本システムの開発を継続し、2027年度までの製品化を目指します。また、本システムが微生物培養を実施する化学・医薬品や食品、燃料生産などのさまざまな業界に導入・活用されることによりバイオエコノミー産業のさらなる拡大に貢献します。

NEDOは、バイオものづくりが一層発展することにより、本事業が目的とする炭素循環型社会の実現を目指します。

【注釈】
※1 本事業

なお、関連事業としてNEDO「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業(CI実装)」の成果も一部含まれます。

※2 pH
アルカリ性や酸性を表す指数です。
※3 コンボリューショナルデータ
ちとせ研究所の登録商標です。
※4 本システムを開発
※5 機能性食品素材
健康機能に寄与する食品成分です。
※6 濁度(OD)
OD(Optical Density)。培養液中に存在する微生物によって生じる濁りの測定値であり菌数の指標となるものです。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:林(智)、田村、秋葉、峯岸

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本(信)、瀧川、黒川、根本

ad

生物工学一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました