荷重負荷(姿勢や体重により骨にかかる力)で増加して骨形成を促進する骨膜ホルモンの発見

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2021-07-14 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の研究所・細胞生物学部の高野晴子上級研究員、望月直樹部長(研究所長)が骨膜から分泌されるオステオクリン(Osteocrin, OSTN)は荷重の負荷で発現が増加し、骨の形成を促進することを明らかにしました。
本研究成果は2021年7月14日付けで米国科学雑誌「Cell Reports」に掲載されました。

背景

運動や生活活動に伴う荷重の負荷が骨や骨格筋を強くし、骨・筋肉の萎縮を予防することが知られており、身体活動を維持する重要な因子となっています。しかし、その詳細な機構の多くは未解明です。骨は①骨を作る骨芽細胞と②骨を溶かす破骨細胞の骨代謝バランスによって維持され、荷重負荷の要求に応じて骨が作られていくと考えられています。このバランス調節に対して荷重負荷がどのように関わるのかは十分に解明されていません。私達はペプチドホルモンであるナトリウム利尿ペプチド(NP)ファミリー分子の生理作用を促進する因子、オステオクリン(Osteocrin, OSTN)が小型魚類(ゼブラフィッシュ)の増殖心筋細胞から分泌されることを見出し、着目してきました1。これまでに、OSTNがNPの作用を強めて軟骨形成や骨伸長を促進することや、血圧制御を介して鬱血性心不全を改善することを明らかにしてきました2, 3

研究手法と成果

今回、私達はOSTNの発現部位を詳細に明らかにするために、OSTN遺伝子座にLacZ遺伝子を挿入し、さらに組織透明化法を組み合わせることにより、マウスの全身においてOSTNの発現部位を解析しました。その結果、OSTNは脛骨や尺骨、橈骨等の遠位の骨で、しかも、荷重負荷がかかる部位で非常に強く発現していました。骨組織の切片を作成して詳細に調べると、OSTNはこれらの遠位骨の骨膜に特異的に発現していました(図1A)。
さらに荷重がOSTNの発現を調節する機構を、尾部懸垂モデルを用いて検討しました。その結果OSTNの発現は、荷重が少なくなると抑制されることがわかりました(図1B)。したがって、OSTNは荷重の刺激により発現が上昇して骨膜から分泌されることが分かりました。次に、OSTNの役割を探るためにOSTNの遺伝子欠損(OSTN-KO)マウスを作成したところ、OSTN-KOマウスでは骨量が減少していました。また、荷重を一定期間少なくすると骨量が減少し、その後、再度荷重を与えると骨量が回復することが知られていますが、OSTN-KOマウスでは、この骨量の回復が抑制されることがわかりました(図1C)。このことからOSTNは荷重の刺激に応じて、骨を作るホルモンであることがわかりました。
最後に、OSTNがどのようにして骨の形成を促進するかを明らかにするために、骨膜から細胞を採取して調べました。骨膜は未分化な細胞を含む組織であり、骨膜の細胞は適切な分化培養条件下で骨芽細胞へと成熟します。OSTNはナトリウム利尿ペプチドファミリーの一つであるC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を促進する因子なので、まず始めにCNPの作用を検討しました。その結果、CNPは骨膜の未分化な細胞を骨芽細胞へと成熟させる因子であることがわかりました。また、CNPとOSTNを一緒に加えるとCNPの作用が強まり、骨芽細胞への成熟がさらに促進されました(図1D)。以上のことから、OSTNは荷重の刺激で発現が上昇し、CNPの作用を強めて骨の形成を促進する因子であることが分かりました(図1E)。

今後の展望と課題

ベッドでの長期臥床により、骨形成が阻害されることが知られており、重篤な循環器疾患(心不全や脳卒中)では安静臥床が必要になることもあります。したがって、骨の維持のためにも本成果が活かされる可能性(寝たきりやフレイルの予防や治療に役立つ可能性)があります。本研究により、OSTNは荷重の刺激を骨の形成へと繋ぐ骨膜ホルモンであることが明らかになりました。しかし、分子メカニズムとして骨膜の細胞が荷重の刺激をどのように感じるか?やCNPがどのように骨芽細胞への成熟を促進するか?は不明であり、今後の解析が期待されます。

発表論文情報

著者: Haruko Watanabe-Takano, Hiroki Ochi, Ayano Chiba, Ayaka Matsuo,
Yugo Kanai, Shigetomo Fukuhara, Naoki Ito, Keisuke Sako, Takahiro Miyazaki, Kazuki Tainaka, Ichiro Harada, Shingo Sato, Yasuhiro Sawada, Naoto Minamino, Shu Takeda, Hiroki R. Ueda, Akihiro Yasoda, and Naoki Mochizuki
題名: Mechanical load regulates bone growth via periosteal Osteocrin
掲載誌: Cell Reports

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・日本学術振興会 科研費 (15H05646, 18H04994, 18K09050)
・日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業 (JP17gm0610010)
・公益財団法人 持田記念医学薬学振興財団
・公益財団法人 上原記念生命科学財団
・公益財団法人 明治安田厚生事業団
(参考文献)
[1] Development, 144, 334-344 (2017)
[2] J. Clin. Invest., 127, 4136-4147 (2017)
[3] Circ Res., 122, 742-751 (2018)
図1
A) 生後30日目のマウス脛骨切片を示す。OSTNは骨膜に非常に強く発現する。
B) 非荷重によりOSTNの発現は抑制され、再荷重により増強する。
C) 再荷重にて誘導される骨量回復がOSTN-KOでは抑制される。
D) CNPとOSTNは協調的に骨芽細胞分化を促進する。
E) OSTNは荷重負荷を骨形成へと繋ぐ骨膜ホルモンである。

荷重負荷(姿勢や体重により骨にかかる力)で増加して骨形成を促進する骨膜ホルモンの発見

生物化学工学
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