ミトコンドリアの変異DNAを減らす化合物の開発

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2021-08-27 京都大学

今回開発された化合物は、ミトコンドリア内のDNAの中から変異してしまったDNAを選択的に見つけて結合し、除去することができます。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)のガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム(Ganesh Pandian Namasivayam)講師、杉山弘(すぎやま・ひろし)連携主任研究者(兼 理学研究科 教授)、日髙拓也 理学研究科博士課程学生(現・日本学術振興会特別研究員、理化学研究所訪問研究員、アイセムス客員研究員)らの研究グループは、独自に開発した化合物をミトコンドリア内のDNAに結合させることで、変異ミトコンドリアDNAを減らすことに成功しました。
細胞内がもつDNAの大半は核内にありますが、細胞内小器官の一つであるミトコンドリアも独自のDNA (ミトコンドリアDNA)を持っています。また、一つの細胞には、数十から数千コピーのミトコンドリアDNAが含まれます。一部のミトコンドリアDNAに生じる変異は、ミトコンドリア機能に障害を与え、ミトコンドリア病と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られています。そのため、変異したミトコンドリアDNAを細胞から取り除く手法が求められています。
本研究グループは2017年に、細胞内の特定のDNA配列に結合する「ピロールイミダゾールポリアミド (PIP)」にミトコンドリアを透過するためのペプチド導入した「MITO-PIP」を作成し、これがミトコンドリアDNAの配列に対して選択的に結合できることを報告しています。本研究では、このMITO-PIPにDNAをアルキル化する化合物“クロラムブシル”を加えることで、細胞内のミトコンドリアDNA変異箇所を選択的にアルキル化し、そのコピー量を減らすことに成功しました。
本研究では、特定のヒト培養細胞が持つ、グアニンからアデニンへのミトコンドリアDNA変異を標的とし、クロラムブシルが標的変異の近くに来るよう、MITO-PIPを設計しました。すると、クロラムブシルがもつアデニン選択的な反応性により、標的変異のアルキル化が効率よく起きることを明らかとしました。さらに、生きた培養細胞をこのMITO-PIPで処理したところ、正常なミトコンドリアDNAと比較して、変異ミトコンドリアDNAの量が減少することが確認されました。
今後、ミトコンドリア病の原因となるミトコンドリアDNA変異を標的とした化合物を開発することで、化合物を用いたミトコンドリア病の遺伝子治療へと応用されることが期待されます。
本研究成果は、2021年8月26日に米国の科学誌「Cell Chemical Biology」オンライン版で公開されました。

詳しい研究成果について

ミトコンドリアの変異DNAを減らす化合物の開発

書誌情報

論文タイトル:“Targeted Elimination of Mutated Mitochondrial DNA by a Multi-functional Conjugate Capable of Sequence-specific Adenine Alkylation”
(参考訳:DNA配列選択的なアデニン塩基のアルキル化による変異ミトコンドリアDNAの除去)
著者:Takuya Hidaka, Kaori Hashiya, Toshikazu Bando, Ganesh N. Pandian, and Hiroshi Sugiyama

Cell Chemical Biology|DOI: 10.1016/j.chembiol.2021.08.003

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