氷河生態系の謎に迫る ~世界各地の氷河に生息する微生物をメタゲノム解析~

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2022-03-23 国立遺伝学研究所

氷河生態系の謎に迫る ~世界各地の氷河に生息する微生物をメタゲノム解析~

Metagenomics reveals global-scale contrasts in nitrogen cycling and cyanobacterial light harvesting mechanisms in glacier cryoconite

T. Murakami, N. Takeuchi, H. Mori, Y. Hirose, A. Edwards, T. Irvine-Fynn, Z. Li, S. Ishii, T. Segawa

Microbiome (2022) 10, 50 DOI:10.1186/s40168-022-01238-7

詳しい資料は≫

氷河には寒冷な環境にもかかわらず様々な微生物が生息しています。すなわち、氷河は雪と氷に囲まれた生物のいない世界ではなく、微生物群集を含む一つの「生態系」とみなすことができます。しかしながら、氷河に生育する微生物の情報は断片的で、氷河上での微生物群集の活動の様子はあまりわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の村上匠特任研究員と森宙史准教授、山梨大学の瀬川高弘講師、千葉大学の竹内望教授、豊橋技術科学大学の広瀬侑助教らによる共同研究チームは、極域やアジア山岳域などの氷河から、「クリオコナイト」とよばれる微生物集合体を採集し、クリオコナイトに含まれる細菌の遺伝情報を「メタゲノム解析」により探索しました。その結果、クリオコナイト内部には多様な細菌種が共存していて、様々な代謝方法で栄養やエネルギーを得ていることがわかりました。さらに世界中のクリオコナイトの細菌群集を比較したところ、地域によって含まれる細菌種やその代謝能が大きく違っていたのです(図)。

こうした「構成員の異なるクリオコナイト」は、地域ごとの氷河環境の違いを反映していると考えられ、氷河生態系の地球規模での多様性に迫る手掛かりになります。氷河は気候変動の影響を最も受けやすい環境の一つで、氷河生態系の存続も危惧されています。今後、得られた知見をもとに環境変動が氷河微生物の活動や多様性に与える影響を継続的に調査していくことが重要です。

本研究は日本学術振興会科研費(課題番号: 19K23766, 19H01143, 20K21840, 21H03588)、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II, 課題番号: JPMXD1420318865)、および公益財団法人発酵研究所 一般研究助成(課題番号: G-2020-2-133)の支援を受けました。

本研究成果は英国科学雑誌「Microbiome」に2022年3月23日(日本時間)に掲載されました。

Figure1

図: メタゲノム解析から推測された極域とアジアのクリオコナイトの違い
クリオコナイト外層(緑色部分)をシアノバクテリアが占めており、活発に光合成を行う点は極域とアジアで共通している。一方で、外層を構成するシアノバクテリアの種類や利用できる光の幅は極域とアジアで異なる。アジアのクリオコナイトの内部(茶色部分)では、豊富な窒素酸化物の供給を受けて細菌による脱窒が行われるが、窒素酸化物の供給が限られる極域では脱窒はほとんど起こらないと見られる。

生物環境工学
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