CDH18は胎児期の心外膜細胞の指標であり胎児心外膜から平滑筋細胞の分化を制御している

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2022-02-09 京都大学iPS細胞研究所

ポイント

  1. 細胞表面タンパク質であるCDH18が心外膜注1)細胞のバイオマーカーであることを突き止めた。
  2. CDH18の発現抑制により心外膜細胞は上皮間葉転換注2)を起こして平滑筋へと分化する。
  3. ヒトiPS 細胞由来の心外膜細胞は、ヒトの心外膜を研究するためのモデルとなる。

1. 要旨

Julia Junghof研究員(CiRA増殖分化機構研究部門、医学研究科)、Antonio Lucena-Cacace研究員(CiRA同部門)および吉田善紀准教授(CiRA同部門)らの研究グループは、心筋の修復や再生を担う細胞の供給源である心外膜細胞を、iPS細胞から作製し、その細胞表面タンパク質であるCDH18が心外膜細胞の特徴的なマーカータンパク質であることを突き止めました。また、CDH18が心外膜細胞から平滑筋細胞への分化を制御するなど、その重要性を明らかにしました。
心筋表面を覆う心外膜は、心臓が作られる胎児期に、さまざまな細胞の供給源となります。心筋の損傷に伴って再活性化し、心筋の修復と再生を行う役割があります。 しかしこれまで、心外膜を識別するためのマーカーを含めて、研究を進める上で必要なツールが十分になく、実験に使うことがそもそも難しい状況でした。 研究グループはヒトiPS細胞を使って心外膜細胞分化を再現し、細胞表面に存在するタンパク質であるCDH18(Cadherin18)が、活性化した心外膜のバイオマーカーであることを突き止めました。 またCDH 18の発現を抑制した心外膜細胞では、上皮間葉転換が生じて平滑筋へと分化し、CDH18が心外膜細胞の分化を制御することを明らかにしました。iPS細胞から作製した心外膜細胞においてCDH18の発現を調べることは、ヒトの発生や疾患における心外膜の機能を調べるためのモデルとして有効であり、再生医療の新たな可能性も拓くと考えられます。
この研究成果は2022年2月2日19時 (日本時間)に「npj Regenerative Medicine」で公開されました。

2. 研究の背景

心臓を含めた循環器系疾患は世界でも死亡者の多い疾患です。私たちヒトの心臓は、傷を負った場合に自らの力で再生することができません。近年では、胎児期に心臓の発生で細胞の供給源となる心外膜が注目されています。胎児期の心外膜細胞は平滑筋や線維芽細胞、内皮細胞など、心臓を構成する様々な細胞に分化することができますが。これまで、心外膜を利用した治療法の研究は進められていましたが、心外膜の発生や活性化の仕組みについては、まだよくわかっていませんでした。また、心外膜細胞を見分けるバイオマーカーとして、細胞表面に存在するタンパク質は同定されていませんでした。
本研究では、心外膜細胞を判別する指標となる細胞表面タンパク質を同定し、iPS細胞から効率よく心外膜細胞を誘導しました。

3. 研究結果

1)心外膜細胞の表面マーカーとしてCDH18を同定
心外膜細胞の遺伝子発現状態を調べるために、iPS細胞から発達段階にある心外膜細胞(Epi12(早期)、Epi48(遅い時期))を誘導し、成熟した成体の心外膜と比較しました。細胞内のmRNAを網羅的に解析し、3種の転写因子(WT1、TBX18、ALDH1A2)が若い心外膜細胞で特徴的であるということが明らかになりました。これらの転写因子いずれとも相関して遺伝子発現が見られる遺伝子として、2221種が見つかりました。特にそのうち細胞の表面タンパク質をコードする遺伝子は49種ありました。そのうち、心外膜細胞で働いている表面タンパク質として15種類を選抜し、さらに、心外膜細胞以外の細胞と関連が深いものを除き、CDH18をバイオマーカーとして同定しました(Fig. 1)。

Fig. 1 心外膜細胞のマーカーを同定する流れ

2)CDH18を抑制することで平滑筋細胞が誘導される
CDH-18の働きを調べるために、siRNAによりCDH-18を抑制した細胞を作製し、免疫染色を行いました。CDH18を抑制した心外膜細胞(d12・si18)では、抑制していない細胞(d12・scr)と比較して、平滑筋細胞の指標となるα-SMA(Fig.2 水色)が増加し心外膜細胞の指標となるZO1(fig.2 赤色)が減少していました。

Fig. 2 α-SMAおよびZO1の免疫染色
DAPI:細胞核
a-SMA:平滑筋の指標
ZO1:心外膜細胞の指標
スケールバー:100μm


次に、CDH18を抑制することで、各遺伝子の転写量に与える影響を調べました。心外膜細胞(Epicardium)に特徴的な遺伝子の発現が抑制され、平滑筋細胞(SMC)に特徴的な遺伝子の発現が活性化されました。

Fig. 3 心外膜・平滑筋および心筋線維芽細胞に特徴的な遺伝子の発現解析

コントロール細胞(scr)と比較して、平滑筋細胞(iSMC)やCDH18を抑制した心外膜細胞(d24・si18およびd12・si18)では平滑筋(SMC)に特徴的な遺伝子の発現が高くなっている。

 


これらの結果から、CDH18は平滑筋細胞への分化を制御する上で重要な因子であると考えられます。

4. まとめ

本研究により、心外膜細胞のバイオマーカーとしてCDH18を同定し、心外膜細胞の同定に新たな手段を見出しました。ヒトiPS細胞から作製した心外膜細胞は、ヒトの心外膜を研究するツールとして利用できます。心臓の修復や再生に利用可能な、活性化した心外膜細胞を作る研究への応用も期待できます。

5. 論文名と著者

  1. 論文名
    CDH18 is a fetal epicardial biomarker regulating differentiation towards vascular smooth muscle cells

  2. ジャーナル名
    npj Regenerative Medicine
  3. 著者
    Julia Junghof1,2, Yuta Kogure1,3, Yu Tian1,2, Eva María Verdugo-Sivianes4,5, Megumi Narita1,
    Antonio Lucena-Cacace1*, and Yoshinori Yoshida1*
    *責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 京都大学大学院医学研究科
    3. ロート製薬株式会社
    4. Instituto de Biomedicina de Sevilla (IBIS), Hospital Universitario Virgen del Rocío, Universidad de Sevilla
    5. CIBERONC, Instituto de Salud Carlos III

6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. the Leducq Foundation
  2. 日本学術振興会 科研費
  3. AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業
  4. AMED 再生医療実用化研究事業
  5. iPS細胞研究基金
  6. 公益財団法人 セコム科学技術振興財団

7. 用語説明

注1) 心外膜
心臓の外表面を覆う膜。胎児期には心臓の細胞源になる。

注2) 上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition; EMT)
上皮細胞が間葉系細胞へと分化すること。臓器形成など発生の段階でよくみられる現象だが、成人の組織でも起こることがあり、組織の繊維化や細胞のがん化に関わることが知られている。

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