植物が見ている空の色は毎日変化する~1日の色彩を分類して日射スペクトルを決めている要因をモデル化~

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2024-12-25 九州大学

農学研究院 久米 篤 教授

ポイント

  • 日射スペクトル(※1)の植物影響評価には、日射の高精度観測やデータのモデル化が必要不可欠
  • 簡易な観測データから日毎の日射特性分類(クラスタリング)を再現できる新しい機械学習モデルの開発に成功
  • 気候変化に伴う日射変化が、植物成長や生物応答、太陽光発電に及ぼす影響の広域評価に期待

概要

植物は、日射を光合成に利用するだけではなく、日射のさまざまな光波長の比率(色彩バランス)を光受容体の応答を通じて環境シグナルとして利用しています。色彩バランスは大気や雲、太陽の高さなどの影響を受けますが、これらの情報は植物生理生態学的には整理されておらず、実態にそぐわない日射モデルによって生物応答が研究されてきました。

そこで、新規に開発された回転シャドウバンド型分光放射計で日射スペクトルの長期観測を行い、日平均日射スペクトルがどのように分類できるか1年間の観測データから解析しました。そして、晴れから曇りまで、5つの異なる分類カテゴリを特定し、日射量や湿度など単純な観測データからこの分類を再現できる新しい機械学習モデルを開発しました。

国立大学九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程3年のAmila Nuwan Siriwardana氏と大学院農学研究院の久米篤教授は、日射スペクトル観測データに累積ユークリッド距離行列に基づく凝集型階層的クラスタリングを適用し、赤から青へのスペクトルシフトを伴う5つの日射特徴クラスター(SCI)を特定しました。そして、比較的簡単に取得できる環境変数(日射拡散率、全天日射、日射の変動率、太陽高度、大気湿度)を使用してSCIを再現できる機械学習モデルを開発しました。

この革新的なアプローチにより、世界のさまざまな場所で、天候に依存する日射波長比率の違いのモデル化が可能となり、植物と生態系機能に関する光応答研究が促進されることが期待されます。

本研究成果はエルゼビア社の学術雑誌「Ecological informatics」に2024年12月11日(水)に掲載されました。

研究者からひとこと

本研究はコロナ下で研究活動が制限される中、伊都キャンパスの農学部建物屋上で実施している長期観測データを利用して行いました。糸島半島は曇りの日の割合が高いため、農業生産にも大きな影響が出ていますが、植物が感じる光波長分布も大きく変化しているのには驚きました。
(博士3年 Amila Nuwan Siriwardana)

植物が見ている空の色は毎日変化する~1日の色彩を分類して日射スペクトルを決めている要因をモデル化~
右 分光放射の観測状況  左 クラスターによる色彩バランス変化の例

用語解説

(※1) 日射スペクトル
太陽からの光は地球の大気を通過する過程で波長分布が変化する。太陽光のスペクトルと地上で観測される日射スペクトルとの違いは、日射が大気を通過する過程での変化過程を反映している。

論文情報

掲載誌:Ecological Informatics
タイトル:Introducing the spectral characteristics index: A novel method for clustering solar radiation fluctuations from a plant-ecophysiological perspective
著者名:Amila Nuwan Siriwardana, Atsushi Kume
DOI: 10.1016/j.ecoinf.2024.102940

お問い合わせ先

農学研究院 久米篤 教授

生物環境工学
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