アスタキサンチンの量産化などヘルスケア分野での応用に期待
2021-07-09 株式会社ユーグレナ,理化学研究所
マレーシア工科大学(UTM)・マレーシア日本国際工科院(MJIIT)の研究チームと、理化学研究所・株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲充、以下、「ユーグレナ社」)が共同運営する微細藻類生産制御技術研究チーム※1は、共同で行った研究※2において、マレーシアで採取した微細藻類の一種であるコエラストルム(Coelastrum sp.)とモノラフィジウム(Monoraphidium sp.)にブラックライトを照射すると、アスタキサンチンの蓄積が促進されることを確認しました。なお、本研究は、ネイチャー・リサーチ社が刊行するオンラインでオープンアクセスの学術雑誌『Scientific Reports』(2021年6月3日付)に掲載されました。
※1 産業界との融合的連携研究制度のもと2018年から株式会社ユーグレナと理研で組む研究チーム。本制度では、理研と企業が一体となる研究チームを作り、社会的課題の解決につながる研究成果の実用化に取り組む。https://bzp.riken.jp/oneteam/
※2 2019年1月に、リバネスマレーシアとUTMが連携して、研究シーズのインキュベーションと同プロセスを通じた人材育成を行うための研究所「Nest-Bio Venture Lab」を設立し、ユーグレナ社も参加。天然資源探索、微細藻類探索、腸内細菌解析などの研究プロジェクトを行っており、今回はその微細藻類探索の研究成果にあたる。https://lne.st/2019/01/21/lvnsmy/
■背景
微細藻類の世界市場は、年率4%のペースで成長すると予測されています。マレーシアは世界の国々の中でも多様な微細藻類が生息しており、今回、マレーシアで採取した微細藻類を用いて、アスタキサンチンの蓄積促進の手法を確認しました。アスタキサンチンはβ-カロテンやリコピンなどと同じカロテノイドの一種で、微細藻類が産生する成分の中でも活性酸素を除去する高い抗酸化作用があり、健康食品や医薬品、化粧品などで応用展開が進んでいます。
紫外線(UV)は、微細藻類に対して強いストレス因子であり、微細藻類は、この紫外線(UV)ストレスによる細胞の損傷から保護するために二次カロテノイドの産生を誘発します。このため、アスタキサンチンの蓄積を促進するストレス因子として長波長紫外線(UV-A)※3を発するブラックライトの刺激を検討するとともに、アスタキサンチンの抗酸化能をスクリーニングすることを目的として、本共同研究を実施しました。
※3 地表に到達する紫外線の殆どが長波長紫外線(UV-A)である
■研究手法と成果
マレーシアのセランゴール州クアラセランゴール自然公園の淡水環境から、プランクトンネットで水を採取しました。その採取した水から、微量の液体の採取や移動に用いられるパスツールピペットで微細藻類の単一細胞を採取して洗浄し、微細藻類用汎用培地であるAF-6培地に移して保存しました(写真a)b))。
写真:マレーシアで単離した微細藻類 a)コエラストルムとb)モノラフィジウム
単離した微細藻類をフラスコで培養し、UV照射を行った場合と行わなかった場合の培養15日後時点、30日後時点でのアスタキサンチン量を測定しました(図)。
コエラストルムでは、15日後の時点でブラックライト照射の有無でアスタキサンチンの量に大きな差はありませんでしたが(UVなし;0.139ug/ml,UVあり;0.178ug/ml)、30日後の時点ではブラックライト照射なしでは0.185ug/mlであったのに対して、ブラックライト照射ありでは約5.4倍の0.999ug/mlという顕著なアスタキサンチン量増加が確認されました(図 コエラストルム)。
モノラフィジウムでは、15日後の段階では、「ブラックライト照射あり」「ブラックライト照射なし」ともにアスタキサンチンの蓄積は認められませんでした。しかし、30日後の段階では、「ブラックライト照射あり」「ブラックライト照射なし」それぞれ0.476µg/mL、0.363µg/mLの濃度となり、アスタキサンチン蓄積量が23.74%有意に増加したことが確認できました(図 モノフィラジウム)。
図:培養液中の微細藻類コエラストルムとモノフィラジウムのアスタキサンチン含有量
* This difference was significant as verified statistically by using t-test (p < 0.05).
また、「ブラックライト照射あり」の条件で培養したコエラストルムおよびモノラフィジウムは、「ブラックライト照射なし」の条件で培養したものと比べて、高いDPPHの消去活性※4を示しました。コエラストルムとモノラフィジウムのいずれも、「ブラックライト照射あり」で培養した場合に、アスタキサンチン蓄積量の増加および高いDPPHの消去活性の相関関係が認められ、特に「ブラックライト照射あり」で培養したコエラストルムでは、抽出したアスタキサンチンのDPPH消去活性率が約30.19%という高い数値を示しました。
※4 抗酸化能を測定する一般的な方法の一つであるDPPH(合成ラジカル)法にて、抗酸化能を測定したい試料と一定量のDDPHを混ぜ、試料がどれだけDPPHを消去するかによって抗酸化能を測定した
■今後の期待
この度の研究では、ブラックライト照射による、マレーシア現地の微細藻類に含まれるアスタキサンチンの蓄積促進と高含有化を確認するとともに、そのアスタキサンチンが高い抗酸化能をもつ可能性が示唆されました。日本国内においても、アスタキサンチンを含有するヘマトコッカスなど様々な微細藻類の培養実証が行われており、今回の研究成果はアスタキサンチンの量産化への応用が期待できます。
以下、UTM杉浦則夫教授のコメントです。
「ヘマトコッカスなど他の微細藻類の培養等においても、今回の研究成果であるブラックライト照射により、アスタキサンチンなどの有用成分の蓄積が促進される可能性がある。」
今後も、国内外の地域資源である微細藻類を活用し、アスタキサンチンなど有用成分の量産化などヘルスケアをはじめ様々な分野に寄与する研究を実施していく予定です。
―報道関係者お問い合わせ先―
株式会社ユーグレナ コーポレートコミュニケーション課
理化学研究所 広報室