葉のかたちがオトシブミの葉の加工を妨げることを発見

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植物と昆虫の相互作用における葉のかたちの新たな役割

2019-09-05 京都大学

樋口裕美子 理学研究科博士課程学生、川北篤 東京大学教授は、シソ科ヤマハッカ属の草本ハクサンカメバヒキオコシの葉にみられる切れ込みが、ムツモンオトシブミによる葉の加工を妨げることを発見しました。

ムツモンオトシブミは、メスが産卵の際に、子のエサおよび住み処となる精巧な「揺籃」をつくるオトシブミ科の甲虫の一種です。ヤマハッカ属で葉に切れ込みのない別種と比較すると、メスはハクサンカメバヒキオコシの葉や、人為的に切れ込ませた葉を揺籃基質として好まないこと、卵を両種の葉で巻き直すとどちらの葉でも子供は同様に成長すること、加工する前に葉を調べるために行う歩行の段階で、ハクサンカメバヒキオコシの葉が忌避されていることがわかりました。

この歩行は規則的で、加工前に葉を測量する意味を持つと言われています。ハクサンカメバヒキオコシの葉では、切れ込みによって歩行が妨げられるため、メスは以降の加工を諦めることがわかりました。

本研究成果は、2019年9月3日に、国際学術誌「Nature Plants」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41477-019-0505-x

Yumiko Higuchi & Atsushi Kawakita (2019). Leaf shape deters plant processing by an herbivorous weevil. Nature Plants.

詳しい研究内容について

葉のかたちがオトシブミの葉の加工を妨げることを発見
―植物と昆虫の相互作用における葉のかたちの新たな役割―

概要
植物の葉はブナのように単純なものからカエデのように切れ込んだものまで多様な「 かたち」を示しますが、 自然界でどのように働いているのかはよくわかっていません。京都大学大学院理学研究科 樋口裕美子 博士課 程学生、東京大学大学院理学系研究科附属植物園 川北篤 教授の研究グループは、シソ科ヤマハッカ属の草本 ハクサンカメバヒキオコシの葉にみられる切れ込みが、ムツモンオトシブミによる葉の加工を妨げることを発 見しました。ムツモンオトシブミは、メスが産卵の際に、子のエサおよび住み処となる精巧な「 揺籃」をつく るオトシブミ科の甲虫の一種です。ヤマハッカ属で葉に切れ込みのない別種と比較すると、1)メスはハクサ ンカメバヒキオコシの葉や、人為的に切れ込ませた葉を揺籃基質として好まないこと、2)卵を両種の葉で巻 き直すとどちらの葉でも子供は同様に成長すること、3)加工する前に葉を調べるために行う歩行の段階で、 ハクサンカメバヒキオコシの葉が忌避されていることがわかりました。この歩行には加工前に葉を測量する意 味もあるとされ、ハクサンカメバヒキオコシの葉では切れ込みのために規則的な歩行が妨げられるため、メス は以降の加工を諦めると考えられました。
本研究成果は、2019 年 9 月 3 日に、国際学術誌 Nature「Plants」にオンライン掲載されました。


第 1 図 ムツモンオトシブミは、切れ込んでいないクロバナヒキオコシの葉では揺籃をつくることができるが、 切れ込んだハクサンカメバヒキオコシの葉では加工前の踏査がうまく完了できず、揺籃をつくれない。

1.背景
植物の葉は様々なかたちを示しますが、葉の他の形質に比べて自然界でどのように作用しているのかはよく わかっていません。植物はときに葉を食べる昆虫により大きな被害を受けることがありますが、昆虫の食害に 対する葉のかたちの機能は特に知られてきませんでした。これには、葉のかたちのようなスケールの大きい形 態情報が、化学物質やより細かい形態形質に比べて植食性昆虫の寄主選択に作用しにくいと考えられてきたこ とがあると思われます。
オトシブミ科の甲虫は、産卵の際メスが葉を巧妙に巻き上げ、子供のエサかつ住み処となる「 揺籃」と呼ば れる円筒状の葉巻きをつくります。この揺籃作成は非常に緻密な加工を必要とするため、通常の寄主植物とは 異なるかたちの葉では、メスはうまく加工できないため、葉のかたちが寄主選択に影響している可能性があり ます。国内に広く生育するムツモンオトシブミは主にシソ科ヤマハッカ属植物を利用します。このヤマハッカ 属はふつう単純な楕円形の葉をもちますが、北陸地方に生育するハクサンカメバヒキオコシは例外的に顕著に 切れ込んだ葉をもちます。そこで、本研究ではこの切れ込んだハクサンカメバヒキオコシの葉がムツモンオト シブミの産卵加工を阻害するのではないかと考え、これを検証しました。

2.研究手法・成果
実験にはハクサンカメバヒキオコシと、本種としばしば同所的に生育する同属で葉に切れ込みのないクロバ ナヒキオコシの 2 種を用いました。まず、複数の同所群落で各種に作られた揺籃の数を調べたところ、クロバ ナヒキオコシではハクサンカメバヒキオコシよりも 1.6~73 倍ほど多く揺籃がつくられていました。飼育下で 両種の葉を同時にムツモンオトシブミに与える選択実験でも、メスはクロバナヒキオコシにより多く揺籃をつ くりました。一方、卵を両種の葉で人為的に巻き直すと幼虫は同様に成長し成虫となったため、子供の成長に とっての葉の質が、両種におけるメスの好みのちがいをもたらしたのではないと考えられました。
野外で揺籃に使われたハクサンカメバヒキオコシの葉は、いずれも平均より切れ込みの少ない葉でした。そ こで、クロバナヒキオコシの葉をハクサンカメバヒキオコシに似た「 切れこんだ」かたちと、同じ長さ葉の縁 を切る「 切れ込まない」かたちに整形し、ムツモンオトシブミに同時に与えて直接「 かたち」の影響を調べま した。すると、メスは切れ込んでいないクロバナヒキオコシにより多く揺籃をつくりました。
メスの揺籃形成行動を観察すると、加工前に葉の上を歩き回って葉が揺籃に適切か調べる「 踏査」の段階で ハクサンカメバヒキオコシの葉が忌避されていました。この「 踏査」では通常、葉の基部から葉の縁を歩いて 先端を通り、主脈に沿って葉の基部に戻る歩行を左右交互に複数回行います。この規則的な歩行は加工前の測 量の意味をもつといわれているのですが、深く切れ込んだハクサンカメバヒキオコシの葉では、メスはしばし ば側裂片の先端で引き返してしまい、その結果左右非対称で不規則な歩行になっていました。 これらの結果から、ムツモンオトシブミのメスは、葉の質としてはハクサンカメバヒキオコシを利用できる ものの、切れ込みのために葉の踏査をうまく完了できず、以降の加工が妨げられていると結論されました。

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