光で「生きたまま」微生物を高密度濃縮できるハニカム基板を開発

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有用微生物の濃縮によるバイオマス利用技術の革新に期待

2020-02-29    大阪府立大学,科学技術振興機

ポイント
  • 自己組織化で形成したハニカム状の光熱フィルムにわずか20秒間レーザー(出力80ミリワット(mW)以下)を照射するだけで、発生した対流を使用して80~90パーセント(%)の高い生存率で細菌の高密度集積(10~10cells毎平方センチメートル)ができることを実証。
  • 水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し、その表面に金属ナノ薄膜を形成して高効率なハニカム型光濃縮基板を開発。
  • 対象とする細菌の例として電流発生菌を光学的に濃縮・集積でき、レーザー照射の回数を増やすだけで、電流密度を1~2桁増大。

大阪府立大学 LAC-SYS研究所(副所長:床波 志保、所長:飯田 琢也)のチームはJSTの未来社会創造事業において、レーザーを照射しているにもかかわらず生体サンプルを低ダメージ(生存率80~90%)かつ培養フリーで高密度に濃縮できる「ハニカム型光濃縮基板」の開発に成功しました。

細菌を生存状態で基板上に迅速に高密度集積化する技術は、目的とする細菌を培養で増やすことが困難な場合に微量の代謝物の評価や、有用細菌の代謝機構を用いた微生物テクノロジーの発展において切望されています。近年、有用細菌の代謝機構を利用した応用例は有機物の分解による汚水処理やバイオエタノールの生産、電気的エネルギーの取得などバイオマス注1)関連の極めて幅広い領域にわたっています。

本研究では、自然界で最も稠密な六方最密構造を示す「ハチの巣」から着想を得て、ミクロンオーダーの細菌に適合した細孔を有するハニカム高分子膜に光発熱特性を付与した基板を開発し、多数の細菌を「生きたまま」高密度に光濃縮することで基板上の細菌総体としての代謝機能の増大とその高効率利用の実証に世界に先駆けて成功しました。この成果はバイオマス利用技術の革新につながるものです。

本研究成果は、2020年2月28日(米国東部時間)に国際科学誌「Science Advances」に掲載されます。

本研究はJST 未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域の研究開発課題「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発(研究開発代表者:飯田 琢也)」(JPMJMI18GA)のもとで実施されました。

<研究の背景>

細菌を生存状態で基板上に高密度集積化することは、目的とする細菌の代謝機構の基礎的評価に加え、有用細菌の応用や機能の最大化の観点から非常に重要です。近年、有用細菌の代謝機構を利用した応用の範囲は汚水処理やバイオエタノールなど有用な有機化合物の精製、電気的エネルギーの取得など多岐にわたっています。一例として、原始的な細菌であるジオバクター属やシュワネラ属などの電流発生菌は菌体内で起こる酸化還元反応に由来する電子を効率良く菌体外に排出することが知られており、微生物燃料電池(MFC)への応用が期待されています。このような電子移動機構を応用して、電流発生菌からの電子取得の高効率化に関する取り組みが数多く行われています。例えば、接触面積を増やすためにポーラスカーボンやグラフェンナノリボンなど表面積の大きな電極を用いた研究が行われてきましたが、細菌の高密度化には培養を用いるため数日以上の長い時間が必要でした。

これら細菌のサイズは数百ナノメートル(nm)~数マイクロメートル(μm)程度ですが、1~10μm程度の大きさの細孔を密に配列した基板を準備できれば、接触面積を最大化でき、外場で遠隔的に多数の細菌を生きたまま基板上に濃縮・トラップ(捕捉)することで機能を最大化できるはずと考えました。このような観点から、細菌捕捉用基板として自然界で最も稠密な六方最密構造を示すハニカム構造に注目しました。例えば、マクロなハニカム構造は、少ない材料で多くの蜜を収容できる蜂の巣や、表面積を増やし多くの光を感知する昆虫の複眼、さまざまな方向からの応力を分散し体内を守る亀の甲羅など、単位面積あたりの容積や強度が必要な器官で用いられており、ハニカム構造を活用した生体模倣技術の開発も試みられています。一方で、外場による細菌捕捉技術は光ピンセット注2)のように光電磁場との相互作用を用いる方法では少数の細胞しか捕捉できず、光を金属ナノ薄膜注3)に照射した場合に生じる光発熱効果注4)による対流を利用した光発熱集合では大半の細菌が死滅してしまうという課題がありました。

我々は、このようなハニカム構造の優れた特性や外場による細菌捕捉技術から着想を得て、ミクロンオーダーの細菌に適合したサイズの細孔を有するハニカム高分子膜を基板上に作製し、光発熱効果における熱伝導特性をデザインすることで物理的手段により低ダメージで「生きたまま」多数の細菌をより迅速に高密度捕捉するための原理解明を試みました(図1)。

<研究方法>

水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し、その表面に金属ナノ薄膜(膜厚50nm)を形成することで高効率な光発熱基板を開発しました。このハニカム基板の隔壁部分に赤外レーザー(波長1064nm)照射をすることで生じた「光誘起対流」により、鞭毛を持ち走化性のある緑膿菌と走化性の無い黄色ブドウ球菌を集積化し、生存率を評価しました。また、電流発生菌も光集積の対象としてレーザー照射点数を変えて集積し、その後にハニカム基板に電圧印加のもとで発生する電流密度の測定を行うことで機能評価しました。同じ出力のレーザーを照射した場合、従来の光発熱集合法で用いていた平坦な金ナノ薄膜をコートした基板よりもハニカム基板の方では温度の上昇が倍増することをサーモグラフィーによる測定で見いだしました(図2)。また、電磁応答理論と熱流体力学理論を融合して対流を解析し、レーザー照射点に向かうハニカム基板表面の水平対流と細孔内の渦状の対流が発生することを示すことで、生きて動く細菌でも高密度に捕捉できる実験結果を検証しました(図1B右)。

<研究成果>

ここでは、本研究の主な成果として、ハニカム光濃縮基板を用いてレーザー照射による細菌の捕捉を行った結果について説明します。対象とする細菌の例として、グラム陰性菌であり桿菌(棒状の細菌)である緑膿菌と、グラム陽性菌であり球菌である黄色ブドウ球菌(球状の細菌)を用いました。図1Cの上段はハニカム高分子膜の隔壁に40mWのレーザー出力で光発熱集合を行った場合の生細菌(緑色)と外膜損傷を受けた細菌(赤色)の蛍光イメージです。100μmに及ぶ広範囲でハニカム高分子膜に対し細菌が密に集積され、死菌(赤色)がほとんどいないことも分かり、レーザー照射後に細菌を集積した基板を培養液に浸漬して培養したところ細菌が増殖することも確認しています。一方、比較実験として、従来法で用いてできた平坦な金属ナノ薄膜(平坦基板)にレーザー照射した場合には70mW以下のレーザーでは気泡も発生せず、129mWと高出力のレーザーを照射した場合には細菌はレーザー照射点付近に集積はできますが、集積範囲も狭く生存率も約16%と大半の細菌が死滅していることが分かりました。さらに、図3では各細菌において10mW~70mWの範囲でレーザーパワー変化させ、捕捉した細菌の蛍光染色像から見積もった捕捉密度と生存率の関係を示していますが、緑膿菌、黄色ブドウ球菌いずれの場合も特定のレーザーパワーの範囲で80~90%の高生存率を保ちながら各ハニカム細孔に高密度に捕捉されていることも分かりました。

高密度トラップした細菌の機能評価を行うために電流発生菌の一種であるシュワネラ菌を対象とした実験も行いました。この菌を光集積したハニカム基板を負極とし、Pt基板を正極、参照極にAg/AgClを用いた三極系においてバイアス電圧を印加しながら電流計測をした結果が図4です。シュワネラ菌は有機物を分解して電子放出を行うことが知られており、有機物として乳酸ナトリウムを添加して電子抽出をしやすい環境下(嫌気性条件下)での測定を行いました。各点20秒ずつ逐次的にレーザー照射を行ったところ、照射点の数を25点、50点、100点と増やすと、電流密度が照射点数に伴って1~2ケタの増大を示すことが分かりました。ここでは細胞分裂が起こらない程度の短時間で電流計測を行っており、この電流密度の増大はレーザー照射により高密度集積されたシュワネラ菌によるものと考えられます。

これらの結果は細菌が生きたまま(機能保持したまま)トラップできていることを強く支持する結果であり、細菌の機能を維持しながら高機能な微生物デバイスの開発にハニカム型光濃縮基板を利用できることを示唆する極めて重要な結果です。

なお、本研究は床波 志保 副所長と飯田 琢也 所長によるもので、その指導のもと、栗田 慎也 氏(平成29年度博士前期課程修了)、吉川 諒 氏(平成30年度博士前期課程修了)、櫻井 健司 氏(博士前期課程1年)、末廣 泰地 氏(博士前期課程2年)、山本 靖之 氏(平成30年度博士後期課程修了)は細菌の光濃縮に関する実験を遂行しました。また、床波副所長、栗田氏、吉川氏、櫻井氏は、千歳科学技術大学 Olaf Karthaus 教授の技術指導のもと、ハニカム基板を作製し、田村 守 特認助教と飯田所長は光誘起対流の理論計算で実験結果の解析に貢献しました。

<今後への期待>

我々が明らかにした成果は光吸収性材料を表面コートしたハニカム基板が細菌を高生存率で大面積・高密度に捕捉するための重要な要素技術であることを示すものです。ここでは電流発生菌を一例として示し、逐次的に多点照射を行うことで電流発生効率の向上を確認しましたが、同時に多点照射ができる光学系が構築できれば、さらに短時間での機能評価に利用できる可能性があります。

例えば、本成果を利用して有用細菌を高密度に光濃縮することで、有機物の分解による下水処理、バイオエタノールの生産、電気エネルギーの取得、腸内環境を模倣した微生物デバイスによる腸内細菌叢の機序解明や、細菌の代謝メカニズムの向上による高効率な微生物デバイスの開発が期待されます。また、食中毒菌などの悪性細菌を対象とした場合には、迅速・高感度・簡便な飲食物の検査技術や、悪性細菌から分泌される毒素の評価、ウイルス検出などにも利用できる可能性があり、さまざまな生体ナノ物質(DNA、たんぱく質など)にダメージを与えない光濃縮技術などへの展開も期待できます。

<参考図>

図1 ハニカム基板による生細菌の高密度光濃縮

図1 ハニカム基板による生細菌の高密度光濃縮

図1C左右は同一箇所。図1Bは<研究方法>、図1Cは<研究成果>に詳述。

図2 ハニカム基板と従来の平坦基板の光発熱効果の比較

図2 ハニカム基板と従来の平坦基板の光発熱効果の比較

図3 複数種類の細菌の光集積による捕捉密度と生存率図3 複数種類の細菌の光集積による捕捉密度と生存率

図4 逐次多点照射による電流発生菌の捕捉と電流密度増大

図4 逐次多点照射による電流発生菌の捕捉と電流密度増大

図 ハチの巣を模倣したマイクロ細孔基板に数十秒レーザー照射するだけで「大面積」「高密度」「高生存率」で有用細菌を捕捉

図 ハチの巣を模倣したマイクロ細孔基板に数十秒レーザー照射するだけで「大面積」「高密度」「高生存率」で有用細菌を捕捉

<用語解説>
注1)バイオマス
広い意味で化石資源以外の再生可能な生物由来の有機性資源のことを指します。生物(バイオ)由来の資源量(マス)を表す概念で、このようなバイオマスは3種類に分類できます。1つ目は廃棄物系バイオマスで、下水での排水や汚泥、廃棄された食品、家庭やオフィスで廃棄された紙、建設現場や製材工場での廃材、家畜排せつ物などが挙げられます。2つ目の資源作物としてはバイオエタノールなどのエネルギー源の材料となるトウモロコシやさとうきびなど、3つ目は農作物の精製後に残されたわら(稲、麦)や籾殻などの未利用バイオマスを挙げることができます。
注2)光ピンセット
その名の通り、光でピンセットのように小さな物質を摘む技術のことです。レーザー光をレンズで強く絞ると、強度が高くなる焦点付近に、ナノからマイクロサイズの物質を捕捉(トラップ)することができます。なお、光が物質に当たり散乱や吸収されると、運動量が物質に受け渡されることで物質を押す力が作用します。一般に、捕捉のための力を勾配力、散乱や吸収による力を散逸力と呼びますが、勾配力が散逸力を上回ることで物質をトラップできます。
注3)金属ナノ薄膜
典型的には金属から成る100ナノメートル(nm:100万分の1ミリメートル)以下の厚さの薄膜を指します。金属はその内部を電子が自由に走り回ることができるため高い導電性を示すことはよく知られています。一方で、金属をナノサイズ化すると、このような自由電子が走り回れるバルクの領域が狭くなり、ナノサイズ物質の表面に強く束縛されます。このような表面に束縛された自由電子の状態を「表面プラズモン」と呼びます。この表面プラズモンが光を吸収することで光照射領域とその近傍を局所的に加熱することができます。
注4)光発熱効果
物質が光を吸収した際に局所的に発生する熱の効果を指します。癌細胞などをこの光発熱効果により死滅させる光温熱治療や、局所的な物質状態変化による光加工なども利用されています。また、集光レーザー照射下での局所的な光発熱効果により発生した対流やバブルなどの流体現象を利用して対象とするナノ物質やマイクロ物質を遠隔的に集合する「光発熱集合法」として近年盛んに研究が行われています。このような光発熱効果による流体現象を利用した新分野のことを「フォトサーマル・フルイディクス」とも呼びます。
<論文タイトル>
“Light-induced Assembly of Living Bacteria with Honeycomb Substrate”

(ハニカム基板による生きた細菌の光誘起集合)

DOI:10.1126/sciadv.aaz5757
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

床波 志保(トコナミ シホ)

大阪府立大学 LAC-SYS研究所 副所長

飯田 琢也(イイダ タクヤ)

大阪府立大学 LAC-SYS研究所 所長

<JST事業に関すること>

水田 寿雄(ミズタ ヒサオ)

科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

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