「ゼニゴケ」が精子の機能や鞭毛運動研究の推進に貢献 植物の精子の運動性に「cAMPシグナル伝達系」が鍵となることが明らかに

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2024-04-11 立命館大学,東京大学,福井県立大学,京都大学

立命館大学生命科学部の笠原賢洋教授、山本千愛元初任助教(現・筑波大学下田臨海実験センター研究員)、高橋文雄元講師(現・東邦大学薬学部講師)らの研究グループは、東京大学大学院総合文化研究科の末次憲之准教授、福井県立大学海洋生物資源学部の山田和正助教、吉川伸哉教授、京都大学大学院生命科学研究科の河内孝之教授らと共同で、コケ植物ゼニゴケにおいてcAMP シグナル伝達系が精子の運動性に重要な役割をもつことを明らかにしました。本研究成果は、米国の国際学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences 」に掲載されました。

本件のポイント
  • 基部陸上植物ゼニゴケにおいてcAMPシグナル伝達系が精子の運動調節に関与することを発見
  • 細胞内シグナル伝達物質cAMPの植物における機能解明へ貢献
  • 精子の機能および鞭毛運動研究のモデル生物としてのゼニゴケの有用性を実証
研究成果の概要

細胞は環境刺激や他の細胞からの信号を受け、特定の細胞内シグナル伝達物質を利用して細胞内にこれらを伝えます。動物やバクテリアなど幅広い生物において、サイクリックAMP(cAMP)は細胞内シグナル伝達物質としてはたらくことが知られていますが、植物におけるその役割は不明瞭でした。本研究では、コケ植物ゼニゴケの精子の運動において、cAMPを合成および分解する酵素(CAPE)とcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素(PKA)が重要な役割を果たすことを明らかにしました。また、本研究によりゼニゴケが精子の機能や鞭毛運動研究のためのよいモデル生物となることが示されました。

研究の背景

植物のなかにも動物のように精子を使って有性生殖するものがいます。コケ植物はそのひとつで、鞭毛をもった精子が卵まで泳ぐことで受精します。動物では精子が泳ぐ仕組みについてよく研究されてきましたが、植物では精子の運動に関わる因子の多くは未解明でした。そこで我々のグループは、動物で精子の運動性を制御するcAMPシグナル伝達系因子が、精子をつくる植物分類群において高度に保存されていることに着目しました。多くの生物においてcAMPは広く知られているシグナル伝達物質ですが、陸上植物におけるその役割は長らく謎に包まれていました。

研究内容

本研究では、遺伝子組換えが容易な基部陸上植物ゼニゴケを用いて研究を行いました。精子をつくる陸上植物に高度に保存されているcAMPを合成および分解する酵素(CAPE)に着目し、CAPEの機能を欠損させたゼニゴケを作製、解析しました。CAPEの機能を失っても、精子のかたちは正常でしたが、鞭毛運動に異常をきたし、直線的に泳ぐことができず、卵にたどり着けなくなることがわかりました。さらに、cAMPの主要なターゲットであるcAMP依存性リン酸化酵素(PKA)の機能を欠損させた株も同様に、精子の運動性が低下することが明らかになりました。したがって、ゼニゴケにおいてCAPEとPKAという2つのcAMPシグナル伝達系因子が精子の遊泳を制御するために重要であることが示されました。これらの研究結果は、植物において精子の運動をコントロールする分子メカニズムを理解する上で重要であり、また、これまで議論の的であった植物におけるcAMPの役割について道を拓く成果につながります。

社会的な意義

植物や動物を含む真核生物は、ほぼ共通した仕組みで鞭毛を動かしています。本研究により、精子の運動性にcAMPシグナル伝達系が重要な役割を果たすことは、植物と動物で共通していることが新たにわかりました。そのため、ゼニゴケを用いて本研究で得られた知見は動物をはじめ、広範な真核生物の鞭毛運動調節機構の理解に繋がります。今後、遺伝子組換えが容易で成長がはやいゼニゴケをモデルとした鞭毛運動研究を推進することで、鞭毛をつかって移動する細胞や生物の運動機構の解明に貢献することが期待されます。

「ゼニゴケ」が精子の機能や鞭毛運動研究の推進に貢献 植物の精子の運動性に「cAMPシグナル伝達系」が鍵となることが明らかに
図1.ゼニゴケ精子のかたちと遊泳の軌跡

論文情報

論文名:The cAMP signaling module regulates sperm motility in the liverwort Marchantia polymorpha
著者:山本千愛1、高橋文雄1、末次憲之2、山田和正3、吉川伸哉3、河内孝之4、笠原賢洋1
1立命館大学生命科学部、2東京大学大学院総合文化研究科、3福井県立大学海洋生物資源学部、4京都大学大学院生命科学研究科
掲載雑誌:Proceedings of the National Academy of Sciences
掲載日:2024年4月9日(火)00:00(米国時間)
DOI:10.1073/pnas.2322211121
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2322211121

生物化学工学
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