マメ科植物と根粒菌の共生バランスの維持機構の新たな一員、小分子ペプチドの糖鎖修飾酵素PLENTYを同定

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2018/12/20  基礎生物学研究所,筑波大学,名古屋大学

マメ科植物は、根粒菌との共生を適切な量に制御する、共生バランスの維持機構を備えています。基礎生物学研究所の養老瑛美子 元大学院生(現 立教大学研究員)、川口正代司 教授、筑波大学の寿崎拓哉 准教授、名古屋大学の松林嘉克 教授らの研究グループは、共生バランスを保つ機構を担う新たな因子として、小分子ペプチドの糖鎖修飾酵素PLENTYを同定しました。本成果は、10月30日付けで、Journal of Experimental Biology誌に掲載されました。
【研究の背景】
マメ科植物は、根粒菌との共生器官である根粒を根に形成する根粒共生によって、窒素の供給を受け、窒素源に乏しい環境でも生育することができます。しかし、根粒共生は、宿主であるマメ科植物にとって、器官形成に伴うエネルギー消費や、根粒菌への光合成産物の供給など、コストを要します。そこで、マメ科植物は、自らの成長段階や必要な窒素量に応じて、適切な数の根粒を形成する機構を備えています。
これまでに、私たちの研究グループでは、マメ科のモデル植物であるであるミヤコグサを用いて、根粒を過剰に形成する突然変異体を単離し、根粒の数を適切に保つ機構の分子メカニズムを解明してきました。その主な経路が、植物体の根と地上部を介した全身的な根粒数の負の制御機構です(図1)。全身的な根粒数の負の制御機構の主な因子として、根で産生され、地上部へと導管を伝って移動する3つのCLEペプチド(CLE-RS1, CLE-RS2, CLE-RS3)と、地上部でCLEペプチドを受容するHAR1受容体があります。また、これら3つのCLEペプチドのうちCLE-RS2については、N末端側から7番目のヒドロキシプロリンに3つのアラビノースが付加され、活性のある成熟ペプチドになることが明らかにされていました。しかし、この糖鎖修飾を担う酵素は同定されていませんでした。
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図1 全身的な根粒数の負の制御機構のモデルと糖鎖修飾酵素PLENTYの機能

【研究の成果】
本研究では、まず、原因遺伝子が未同定であった根粒を過剰に形成する変異体plentyの原因遺伝子PLENTYを同定しました。相補実験により、PLENTY遺伝子は根粒の数を負に制御するのみならず、主根の伸長を正に制御することを明らかにしました(図2)。また、PLENTY遺伝子は、他の被子植物の遺伝子とのアミノ酸配列の相同性から、糖鎖修飾酵素であることが推定されました。実際に、PLE NTYタンパク質は、小分子ペプチドが発現する過程で糖鎖修飾を受ける細胞内小器官であるゴルジ体で発現していました。また、精製したPLE NTYタンパク質と人工基質ペプチドを用いて、PLENTYにはアラビノースを付加する酵素活性があることを証明しました。次に、plenty変異体において、PLENTYの基質の有力候補である3つのCLEペプチドを過剰発現させ、根粒数を抑制する機能を調べました。その結果、根粒数抑制機能が完全に失われていたCLE-RS3がPLENTYの基質として最も有力であり、続いて部分的に根粒数抑制機能を維持していたCLE-RS2、根粒数抑制機能がほとんど失われていないCLE-RS1の順となった(図3)。この結果は、3つのCLEペプチドに対し、PLENTYが異なる基質特異性をもつ可能性を示唆しています。
さらに、plenty変異体とhar1 変異体(CLEペプチドの受容体の遺伝子の変異体)との二重変異体が、それぞれの単独変異体よりも過剰な根粒を形成した(図4)ことから、PLENTYがCLEぺプチド-HAR1受容体経路以外の経路で機能する、未同定の別のペプチドの糖鎖修飾も担っている可能性が示唆されました。
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図2 PLENTYは根粒数を負に制御し、主根の伸長を正に制御する
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図3 CLE-RS3がPLENTYの基質として最も有力である
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図4 PLENTYはHAR1経路以外にも根粒数を負に制御する経路に関与する可能性がある

【今後の展望】
今回の研究から、PLENTYが全身的に根粒数を負に制御するCLEペプチドに対し、異なる基質特性をもって糖鎖修飾を触媒する可能性が示唆されました。一方で、既知の根粒数の負の制御機構の主な経路であるCLEぺプチド-HAR1受容体経路以外にも、PLENTYが関与する経路が存在する可能性も示唆されました。今後、CLE-RS1, CLE-RS2, CLE-RS3以外のPLENTYの基質も明らかにすることで、根粒数制御に関わる新たな経路や、根の形態形成に関与する新規因子の同定が期待されます。
【発表雑誌】
タイトル:PLENTY, a hydroxyproline O-arabinosyltransferase, negatively regulates root nodule symbiosis in Lotus japonicus
著者:Emiko Yoro, Hanna Nishida, Mari Ogawa-Ohnishi, Chie Yoshida, Takuya Suzaki, Yoshikatsu Matsubayashi, and Masayoshi Kawaguchi
著者所属:基礎生物学研究所、筑波大学・生命環境系、名古屋大学・理学研究科
掲載誌:Journal of Experimental Botany
DOI: 10.1093/jxb/ery364
【研究グループ】
本研究は、基礎生物学研究所・共生システム研究部門の川口正代司 教授、養老瑛美子 元大学院生 (現 立教大学研究員)、および筑波大学・生命環境系の寿崎拓哉 准教授、名古屋大学・理学研究科の松林嘉克 教授らの研究グループによる共同研究によって実施されました。
【研究サポート】
本研究は、日本学術振興会(25-3940, 17J02948)、科学研究費助成事業(25114519, 16H01457, 18H04773, 2212800, 625221105, 18H05274, 15H05957)、などのサポートを受けて行われました。
【問い合わせ先】
基礎生物学研究所 共生システム研究部門
教授: 川口 正代司 (カワグチ マサヨシ)
ホームページ http://www.nibb.ac.jp/miyakohp/

細胞遺伝子工学生物化学工学
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