抗がん剤後の骨髄回復を促す新たなメカニズムを発見 ~自然リンパ球による緊急回復スイッチの作動~

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2021-03-06 大阪大学,学技術振興機構

ポイント
  • 抗がん剤投与の副作用によって骨髄内の多くの血球細胞が死滅し、骨髄環境が危機的状況になる。その中でもB細胞前駆細胞が死ぬ時に放出されるサイトカインという物質が、骨髄内の2型自然リンパ球(group 2 innate lymphoid cell; ILC2)を活性化させてGM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子:granulocyte macrophage colony stimulating factor)の生産を誘導し、これが緊急回復スイッチとして血球細胞の増殖を促す。すなわち2型自然リンパ球は周りの死んだ細胞から「骨髄危機状況・細胞死シグナル」を受けて性質を変化させ、骨髄機能回復に関わることが分かった。
  • 2型自然リンパ球を体外で増やし、抗がん剤投与後のマウスに移植することで、血球細胞の回復が早まることが分かった。これらの発見は、抗がん剤治療や骨髄移植後の白血球減少症の治療につながる可能性がある。

大阪大学 大学院医学系研究科の數藤 孝雄 助教、石井 優 教授(免疫細胞生物学)らの研究グループは、骨髄中の2型自然リンパ球が、抗がん剤治療後の骨髄傷害を感知し、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)を分泌することで血球数の回復に関わることを世界で初めて明らかにしました。

抗がん剤治療の副作用として白血球などの血球細胞は減少します。その後、骨髄内では生き残った造血前駆細胞が盛んに分裂し、血球を増やそうとしますが、これまでそのメカニズムはよく分かっていませんでした。

今回、石井 優 教授らの研究グループは、骨髄内に存在する免疫細胞の一種である2型自然リンパ球が、抗がん剤治療後に生き残った造血前駆細胞が増殖するよう働きかけていることを明らかにしました。

研究グループは、抗がん剤治療後の骨髄に移植された造血前駆細胞の遺伝子発現を調べることによって、GM-CSFの刺激を受けて増殖していることを突き止めました。また、骨髄内のさまざまな細胞について、「1細胞RNA解析」という手法を用いることによって、免疫細胞の一種である2型自然リンパ球がGM-CSFを分泌していることを突き止めました。骨髄内の2型自然リンパ球は、普段GM-CSFを分泌していませんが、抗がん剤の刺激を受けると性質を変化させてGM-CSFを分泌することが分かりました。2型自然リンパ球をマウスの骨髄から採取して培養し、体外で増やし、抗がん剤投与後のマウスに移植することで、血球細胞の回復が早まることが分かりました。今後、抗がん剤治療や骨髄移植後の白血球減少症の治療につながる可能性が期待されます。

本研究成果は、2021年3月6日(日本時間)に米国科学誌「Journal of Experimental Medicine」にオンライン掲載されます。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「生体制御の機能解明に資する統合1細胞解析基盤技術の創出」研究領域(研究総括:菅野 純夫 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 非常勤講師)における「動く1細胞の「意思」を読み取るin vivo網羅的動態・発現解析法の開発」(研究代表者:石井 優 教授)(JPMJCR15G1)の一環として得られました。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Group 2 innate lymphoid cells support hematopoietic recovery under stress conditions”
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
數藤 孝雄(スドウ タカオ)
大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学 助教

石井 優(イシイ マサル)
大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学 教授

<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

<報道担当>
大阪大学 大学院医学系研究科 広報室
科学技術振興機構 広報課

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