光合成が始まる瞬間の代謝機構を解明

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2023-01-10 神戸大学

神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授、田中謙也特命助教らと、理化学研究所の白井智量上級研究員らの研究グループは、藍藻(シアノバクテリア)における光合成のCO2固定代謝が、光照射開始とともにスムーズに始まるメカニズムを明らかにしました。今後、明暗が時間変化する自然環境中でも安定した物質生産が可能な藍藻の作出指針となることが期待されます。この研究成果は、12月27日に、Plant Physiologyに掲載されました。

ポイント


図1
暗期に蓄積した解糖系代謝物が光合成開始時の初期基質となることが明らかとなった。

  • 光合成によるCO2固定が行われるカルビン回路が活性化される際の代謝変化を秒単位で定量することに成功。
  • 得られた代謝物濃度変化データから、カルビン回路活性化時の代謝の流れを可視化することに成功。
  • これらの解析から、CO2固定代謝の迅速な活性化には解糖系代謝物が暗所で蓄積していることが重要であることが明らかとなりました (図1)。
  • 今後、明暗環境変化に対して柔軟に適応できる有用物質生産株を作出する際の基礎的指針となることが期待されます。

研究の背景

自然環境中では、光強度や温度などが時々刻々と変動します。光合成生物は環境変動に柔軟に適応しながら光合成を行い、CO2を有機物に変換(炭素固定)しています。光合成生物の一つである藍藻(シアノバクテリア)は、光合成による炭素固定を通して地球上の炭素循環に大きく貢献している微生物です。近年、カーボンニュートラルな社会を目指して、藍藻に遺伝子改変を施すことでCO2を原料に有用物質を生産する技術が盛んに研究されています。藍藻を自然環境下で培養して有用物質生産を安定に行うためには、環境適応能力も維持していなければなりません。しかし、環境適応機構には未解明な部分が多く残されており、安定な生産技術開発の妨げとなっています。

環境適応の一例として、炭素固定は光合成が行えない暗期では不活性化され、暗期から光が当たって明期になると活性化されることが知られています。しかし、炭素固定の活性化中にどのような代謝変化が起こるのか、暗期から明期になると光合成による炭素固定をすぐに活性化できるのはなぜなのか、十分に理解されていません。

研究の内容

本研究では藍藻細胞を暗期から明期へ移した後、秒単位でサンプルを採取することで光合成開始に伴って起こる高速代謝変化を詳しく調べました。この結果、解糖系の代謝物である3ホスホグリセリン酸 (3PG)、2ホスホグリセリン酸 (2PG) 、ホスホエノールピルビン酸 (PEP) が光照射後、急速に減少することが分かりました。一方、CO2固定を担うカルビン回路のほとんどの代謝物は急激に増加しました。このことから光合成活性化時には解糖系からカルビン回路への代謝物の変換が最初に起こることが示唆されました。

さらに同位体で標識されたCO2を取り込ませる実験を行うことで、光照射後にどの代謝経路が実際に動いているのか調べました。その結果、解糖系やカルビン回路以外の代謝経路 (たとえばトリカルボン酸回路; TCA回路など) は光照射直後には不活性であることが分かりました。

これらの結果を受けて、光照射後から1分間の代謝物の流れ (代謝フラックス) の変化を計算してみたところ、解糖系の代謝物 (3PG, 2PG, PEP) がカルビン回路代謝物へと変換され、CO2が付加される代謝物であるリブロース1,5-ビスリン酸 (RuBP) が蓄積することが明らかになりました (図2)。またその間、徐々にCO2固定反応、すなわちRuBPにCO2が付加する反応が増加することも示されました。この解析からCO2固定反応 (すなわち光合成) を開始するためにはRuBPの元となる解糖系の代謝物の蓄積が必要だと分かりました。

図2 光照射後の代謝フラックスの変化

今後の展開

今回明らかとなった光照射に伴って光合成がスムーズに始まる代謝基盤は、環境適応機構において代謝物濃度の適切な維持が重要であることを示唆しています。今後、代謝物濃度やその維持機構に着目することで新たな環境適応機構が明らかとなることが期待されます。一方、解糖系代謝物を暗期で蓄積する有用物質生産株を開発することで、明暗環境変化下において迅速な光合成の開始が可能となり、生産量の安定化や効率化が期待されます。

謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業「細胞分裂制御技術による物質生産特化型ラン藻の創製と光合成的芳香族生産への応用」(グラント番号:JPMJMI19E4)および日本学術振興会「特別研究員奨励費」の「褐虫藻-サンゴ共生系における代謝動態と白化現象との相関の体系的理解」(課題番号:21J00113)、日本学術振興会「若手研究」の「高時間分解・絶対定量代謝解析による光合成代謝変動と酸化還元バランス維持機構の解明」(課題番号:22K15142)の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル
Dark accumulation of downstream glycolytic intermediates initiates robust photosynthesis in cyanobacteria
DOI:10.1093/plphys/kiac602
著者
田中謙也 (Kenya Tanaka), 白井智量 (Tomokazu Shirai), Christopher J. Vavricka, 松田真実 (Mami Matsuda), 近藤昭彦 (Akihiko Kondo), 蓮沼誠久 (Tomohisa Hasunuma)
掲載誌
Plant Physiology
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生物化学工学
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